ワルター指揮，コロンビア響の田園交響曲 ステレオ録音
SACD DSD CD SBM CD
◎ベートーヴェン 交響曲第６番「田園」 <1958.1.13,15,17> ワルター指揮，コロンビア響 SONY CLASSICAL SRGR 707 (SACD) SICC 402 (DSD CD) 米SONY CLASSICAL SMK 64 462 (SBM CD) 昨日，名指揮者ブルーノ・ワルター（Bruno Walter, 1876-1962）が晩年， 米コロンビア（現ソニークラシカル）に録音したブラームスの交響強曲第４番 のＳＡＣＤを聴いたところ，演奏と音質の両面でその素晴らしさに感嘆してし まったのでしたが，今回はワルターのおそらく最も代表的な録音である，ベー トーヴェンの「田園」を聴いてみました。 この録音もご多分に漏れず，私自身にとってもＬＰ時代からの愛聴盤で，こ の作品の穏当な表現を心安らかに聴くことのできる名演として拝聴してきたと ころです。 この録音も比較的早い時期にＣＤ化もされ，まずまずの音質で聴くことがで きたのでしたが，ブラームスの４番の時と同様に１９９５年に発売されたスー パー・ビット・マッピング（ＳＢＭ）によるＣＤの音質が良好でしたので，こ の盤がこれまでの愛聴盤でした。 そして，この「田園」についても，昨年末に発売されたソニークラシカル・ ベスト１００という新シリーズに含まれていました。 こちらもブラームスの４番のときと同様に，ＤＳＤマスタリングからのＣＤ 化なのですが，音質はかなり良好で，マスターのヒスノイズを無理にカットし ておらず，情報量が格段に増えて，響きの密度感や存在感があり，演奏の姿を よりはっきりと聴けるようになっていると思います。ただそれでも，音の線の 細さや響きの冷たさが気にならないでもありません。 この録音をＬＰや以前のＣＤで聴いていた際には，さらさらとスムーズに弾 き進められた暖みのある演奏であり，聴いて大変に心地良い演奏であり録音で あると感じていましたし，またそれは，この録音に対する大方のイメージでも あろうと思います。 ところが，このＤＳＤマスタリング盤のＣＤで聴くと，その印象は大きく異 なり，音はダイナミックで実在感があり，各楽器の描写や，アンサンブルの流 麗さなど明瞭に聴き取ることができ，ワルターの音楽づくりがよく分りますし， 演奏の姿がついに明らかになっかたと思えるほどなのです。 そんなわけで，この「田園」についてはＤＳＤマスタリング盤のＣＤでの音 質の改善は著しく，演奏に対する印象を一変させるほどのものなので，これは 大変なお薦めＣＤといえると思います。 とはいえ，今回の目的はＳＡＣＤまで聴いてみることですので，さらに聴き 進んでいくこととします。この録音のＳＡＣＤも１９９９年に発売されていた ものですが，今も現役盤で入手可能です。 それで聴いてみた印象ですが，響きの自然さ，空間のプレゼンス，演奏の実 在感など，比較にならないほどの素晴らしさで，演奏の姿が手に取るように分 かりますし，やはりマスターテープそのものを聴いているような印象がありま す。 ただし，マスターテープを聴いているような音のクオリティとはいっても， ブラームスの４番のＳＡＣＤで聴けた，録音会場のモニタールームで聴いてい るような生々しさはなく，録音物を聴いているということが意識される音です。 これは録音が行われた時期がブラームスよりも１年早いことによるのかもし れませんが，というよりこれは，マイクからミキサーを通った音をそのまま録 音した音なのではなく，何かのプロセスがあって音を加工したために音の鮮度 が落ちてしまったようにも思えます。 それはそうと，改めてこの演奏を聴いてみると，演奏そのものが実に明快で， クリヤーで清涼なソノリティが美しく，アンサンブルには活気があって，ワル ターは決してアグレッシブになったり勢い任せになったりすることなくそれら を見事にコントロールしつつ，端然とした品格とともに，穏やかな感動と，豊 かな共感とを聴き手にもたらす，まさに達意の演奏というほかなく，私も聴き 終えたときには何ともいいがたい感動と余韻が残りましたし，やはりこれは録 音史上屈指の名演であるとの思いを新たにしました。 また，改めて驚いたのはこの録音でのコロンビア響の素晴らしさで，アンサ ンブルはスムーズで愉悦感に溢れ，フレージングも練達の技が冴え，技術的に 見事だというだけでなく，例えばウィーンフィルの演奏に特徴的な音楽の喜び の中で演奏しているといったムジツィーレンしている雰囲気があり，これもワ ルターの人徳と，その指揮の下に集まったオケの面々の意識の反映なのかもし れません。 今回も駆け足でいろいろ述べてしまいましたが，最終的にはＳＡＣＤの音の 素晴らしさは圧倒的というか，比較にならないほどでした。そしてＳＡＣＤで 聴くこの「田園」は，演奏の姿がいっそう明瞭になり，ワルターの指揮と，コ ロンビア響の演奏の素晴らしさをはっきりと確信的に聴き取ることができまし た。 この録音に関してはＤＳＤマスタリングのＣＤでもかなり良好な音質で聴く ことができるので，ＣＤで聴くのであればこれがお薦めですが，それでもＳＡ ＣＤと比較するとどうしても情報量に遜色があり，響きの深みを描ききれず， 表現が表面的にとどまる面があるのも否めません。 というわけで，またも最後はＳＡＣＤ万歳！ということになってしまいまし たが，今回は何といっても，定盤的名演といえるこの録音の素晴らしさを再認 識できたことが大きな収穫でした。正直なところ，私も聴き始める前には，今 さらワルターの「田園」なんて，という気持が多少あったことも事実なのです が，聴き終えた今は深い感動に満たされています。この演奏は本当にいいです ね。
2005.4.10
