石丸寛指揮，九州交響楽団のブラームス交響曲第４番
◎ブラームス 交響曲第４番 <1997.10.16> 石丸寛指揮，九州交響楽団 九州交響楽団 KSO-0001 これは九州交響楽団の自主制作ＣＤですが，ＣＤショップの店頭に並んでい るのを見つけ，驚いて入手したものです。 石丸寛のブラームスの交響曲４番のＣＤというと，このＣＤに収録されてい る演奏会の半年ほど前の東京交響楽団とのライヴ録音がＲＣＡレーベルから発 売されていて，発売当時，私もＣＤ感想を書き込んでいたのでしたが，ほかに 九州交響楽団とのライヴ録音もあるという情報は得ていたものの入手できずに いたので，店頭で見つけ大あわてで入手したというわけでした。 石丸寛はこのライヴ録音から半年も経たない１９９８年３月に惜しまれつつ 世を去ってしまったのでしたが，これはほとんど最後に近い演奏会の記録かも しれません。 それでさっそく聴いてみましたが，正直なところオーケストラの力量は同曲 のライヴ録音ＣＤをリリースしている東京交響楽団に及ぶものではなく，いま ひとつ厚みや力感に不足していて，響き自体も線が細いように思えるのですが， しかし，ここで聴かれる演奏は，指揮者の思いを具現するひたむきさや，やや 淡泊ながらも真正な訴求力など，演奏としての説得力は比類なく，単なる技術 的な力量論を論じることがむなしく感じられてしまうほどです。 石丸寛は九州交響楽団の初代常任指揮者で，１９９５年１０月からは音楽監 督に就任しており，お互いに気心知れ合った関係であったのだろうとは思いま すが，このＣＤで聴かれる演奏は，東京交響楽団の演奏以上に，指揮者の内面 が率直にさらけ出されている印象があり，旋律の最後を引き延ばしたり，しゃ くり上げたりという，姑息になりかねない表情の変化を多用しているのですが， それは偽りのない思い入れの発露であり，そのタクトにオケがぴったりと付い ている様は感動的ですらあります。 私は常日頃，演奏行為というのは演奏者から聴き手への心のコミュニケーショ ンなのであり，それゆえ技術的に高度であっても聴き手の心に伝わるもののな い演奏に意義を見いだすことができないと思っているのですが，このＣＤでの 録音は，演奏行為を通じて心のメッセージがストレートに伝わってきて，それ は演奏が素晴らしいということだけでなく，押し寄せる思いを胸に押し抱きた くなるような愛惜の念すらこみ上げてきてしまいました。 正直なところ，このＣＤの演奏は私の感傷のツボにハマってしまったのかも しれませんし，我ながら気恥ずかしいＣＤ感想を書いているなとも思っている のですが，これは紛れもなく心ある聴き手であれば等しく感懐を覚えるであろ うと思いますし，なにか大切なものを思い起こさせてくれる感動的な名演とし て一聴をお薦めしたいと思います。 ＰＳ． このＣＤが発売されたのは１９９８年で，現在も入手可能かどうかは 分かりませんが，入手を希望される方は，財団法人九州交響楽団の事務 局に直接問い合わせてみてはいかがかと思います。連絡先は同楽団のオ フィシャルサイトをご覧下さい。 http://orchestra.musicinfo.co.jp/~kyukyo/
2002.8.19
