寺下真理子のセカンドＣＤのAve Maria
- グラズノフ
- 瞑想曲 作品３２
- エンニオ・モリコーネ（深川甫編）
- 映画音楽「ミッション」～ガブリエルのオーボエ／滝
- シンディング
- 古風な様式の組曲 作品１０
- シューベルト（松本望編）
- アヴェ・マリア
- アイルランド民謡（深川甫編）
- ロンドンデリーの歌
- クロード・ミシェル・シェーンベルク（深川甫編）
- ミュージカル「レ・ミゼラブル」～夢やぶれて
- 寺下真理子（松本望編）
- Home of spirits
- 作曲者不詳（深川甫編）
- アメイジング・グレイス
- モーツァルト（深川甫編）
- アヴェ・ヴェルム・コルプス
- クライスラー
- コレッリの主題による変奏曲
- バッハ（ヴィルヘルミ編）
- Ｇ線上のアリア
- バッハ（深川甫編）
- マタイ受難曲～第４７曲「憐れみたまえ，わが神よ」
- マスカーニ（松本望編）
- 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」～間奏曲
- プッチーニ（松本望編）
- 歌劇「トゥーランドット」～誰も寝てはならぬ
- 寺下真理子（ヴァイオリン），
松本望（ピアノ） <2014.10.2-3>- KING RECORD KICC 1166
- E-ONKYO KICC 1166 (DSFファイル)
これは寺下真理子の２枚目のＣＤです。今回はオリジナルのヴァイオリン曲 に加え，クラシック音楽の名旋律を深川甫，松本望の両氏の編曲により演奏し ており，さらには自作が１曲演奏されています。 寺下真理子のデビューＣＤが発売された際にも聴いた感想を書き込んでいた ところですが，確かなテクニックによるオーソドックスな演奏を聴かせてくれ ている一方で，録音の音質も含めてやや控えめな印象があったのですが，今回 は収録されている作品の傾向も異なることから，改めて虚心に聴いてみたいと 思います。 それで聴いてみた印象ですが，いずれの作品においても，ゆったりと，伸び やかで心地良く弾き進められており，技術的に不安なところもなく，安心して 身を任せ心委ねることができるような演奏です。 録音についても，細部までリアルに捉えるというのではなく，全体の雰囲気 を大切にしながら，明るめの響きと，ゆとりを感じる大きめの音像で，心安ら ぐような音の空間をつくりあげており，これは演奏と録音のコンセプトが見事 にマッチしていると思います。 これはＤＳＤ録音で，ハイレゾのダウンロード販売もされていることから， 試しにＤＳＤフォーマットであるＤＳＦ形式のファイルも入手して聴いてみま したが，基本的にＣＤと同様のコンセプトの音質ながら，さらなる余裕と安心 感があって，特にＣＤで聴いた際に感じられた高域の窮屈さが緩和されて，よ り聴きやすくなっています。 この録音については，狙いどおりの演奏と録音が高い水準で達成されている ので，こういう音楽，こういう演奏を聴きたいということであれば，文句なし に素晴らしい１枚であり，安心して推薦できるものだと思います。 その一方で，心地良く安心して聴けるというのは，どの曲においても同じよ うな演奏をしているということでもあり，デュナーミクの幅は小さく，フレー ジングラインやヴィヴラートも一本調子なところがあり，これはあえて作品の 表現をシリアスに掘り下げないということなのかもしれません。その中で，な ぜかシンディングの組曲だけはドラマチックな演奏となっていたのは，作品の せいでしょうか。 また，ヴァイオリンの音色についても，耳に心地良くはあるのですが，対峙 して聴き得るほどの味わいや表現力に乏しく，主張の弱い味気ない音色でもあ るのですが，これに関しても，この録音のコンセプトが優先しているのだろう と思われます。 ハイレゾのＤＳＦファイルの再生音にしても，明らかにＣＤを上回る音の情 報量があり，音の魅力は増しているのですが，ＤＳＤ録音が本来有しているポ テンシャルはＣＤとは別物，別次元の音質のはずなのに対し，今回のＤＳＤファ イルは，ＣＤよりは明らかに良いというレベルながら，別次元の音というほど ではありません。これも，意図的なダウンクオリティがないのであれば，録音 においてあまり欲張らなかったということかもしれません。 なんだか褒めているのか褒めていないのか分らないと思われるかもしれませ んが，これは褒めているのであり，絶賛しているのです。念のために，例えば ベートーヴェンやブラームスのソナタを演奏するときのような音色や表現力を 求めるわけにはいかないという，言わずもがななことを併せて述べているだけ です。私としては，寺下真理子がサービス精神を持ってコンセプトに沿った演 奏を高い水準でやりきった傾聴すべき１枚として，改めて強力に推薦したいと 思います。
2015.2.15
