ティーレマン指揮，ドレスデン・シュターツカペレのブルックナー８番のライヴ映像
◎ブルックナー 交響曲第８番 <2012.6.10> ティーレマン指揮，ドレスデン・シュターツカペレ 独C MAJOR 716204 (Blu-ray Disc) ティーレマンとドレスデン・シュターツカペレによるブルックナーの交響曲 第８番のライヴ映像が発売になりました。 これは２０１２年６月１０日にゼンパーオパーで行われた演奏会のライヴ映 像ですが，この両者の同曲の演奏というと，２００８年９月１４日のライヴ録 音がＳＡＣＤハイブリッド盤で発売されていて，これも素晴らしい名演で私も 「２０１０年に聴いたＣＤベスト１０」の第６位にランクインしていたほどな ので，今回の演奏も楽しみです。 さっそく視聴してみると，２００８年のライヴ録音での演奏と比較しても， オーケストラの音の融け合いがさらにスムーズかつ豊潤になり，ティーレマン の指揮も，いっそう自在さを増して，より懐深くスケール感のある演奏をつく り出しています。 いうまでもなく，ドレスデン・シュターツカペレは独自の伝統的な響きと流 儀を有した屈指のオーケストラですが，指揮者のティーレマンとの相性も素晴 らしく，指向している演奏の方向性であるとか，各瞬間において湧きいずる感 興といったものが斉しく共有されていて，互いに触発し，共感し合い，ともど も大いなる充足感と共に演奏している様子が感じられます。 また，ここでのティーレマンの指揮は，例えばギュンター・ヴァントのよう に，細部の修正を重ねて完成度を増していくようなものとは異なり，その時々 における自身の解釈やフィーリングを信じて毎回試行錯誤を重ねていくといっ たタイプのアプローチを行っており，ときおりテンポにブレーキがかかったり， 特徴的な強弱の対比が際立ったりというところも散見されるのですが，あまり 大きな違和感を感じることはありません。 さらには聴衆も大満足だったようで，ティーレマンが２度，３度と指揮台に 呼び戻されるうちに，聴衆総立ちのスタンディングオベーションとなる様子を 見ることができました。 ということで，これは指揮者もオーケストラも聴衆も大満足の大成功の演奏 会であることは疑いなく，それを高画質・高音質で存分に鑑賞することができ るライヴ映像が発売されたことについては，まったく有難いことだというほか ありません。 しかしながら，私自身は，このライヴ映像を十二分に堪能しつつも，それで もなお物足りないものを感じずにはいられませんでした。 それでは，いったい何が物足りなかったのかというと，演奏がまとまりすぎ ている，あるいは円満すぎるのではないかということで，響きもアンサンブル もまったく見事なのに，シリアスさや表出力はさほどでもなく，なんだか緊張 感を欠いた自己満足的演奏に思えてしまったのです。 とはいえ，この点については，当日の会場に居合わせた演奏者も聴衆も大満 足だったわけですから，後からライヴ映像を試聴した者が異を唱えたり，ない ものねだりをしたりというのは，あまりに狭量であり，滑稽ですらないかとい う気もするのですが，あくまでこのライヴ映像を視聴しての感想ということで あれば，それも有りではないでしょうか。 このライヴ映像を私はブルーレイで視聴しましたが，画質はまったく素晴ら しく，目前で演奏されているようなリアルな映像を見ることができますし，録 音についても２４ビットＰＣＭで収録されており，ドレスデン・シュターツカ ペレのフレッシュかつ豊潤な響きを存分に堪能することができました。 いろいろ述べてしまいましたが，これは当代最高水準の充実したブルックナ ー演奏を，高画質・高音質で堪能することのできる，充実の１枚であることは 疑いなく，その意味では大推薦盤であり，あとは各々がどう感じるかなのかな と思います。
2014.5.14
