ガーディナー指揮のミサ・ソレムニスのライヴ録音
◎ベートーヴェン ミサ・ソレムニス ルーシー・クロウ（ソプラノ）， ジェニファー・ジョンストン（メゾ・ソプラノ）， ジェイムズ・ギルクリスト（テノール）， マシュー・ローズ（バス）， ガーディナー指揮， オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク， モンテヴェルディ合唱団 <2012.10.17> 英SDG SDG 718 ガーディナー指揮のオルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティ ークとモンテヴェルディ合唱団ほかの新譜としてベートーヴェンのミサ・ソレ ムニスのライヴ録音が発売になりました。 ガーディナーのミサ・ソレムニスというと，同じオケと合唱団との１９８９ 年の独ARCHIV盤があり，これも高水準の演奏でしたが，今回はロンドンのバー ビカン・センターでのライヴ録音です。 さっそく聴いてみると，この作品にふさわしい，ダイナミックで毅然とした 演奏であり，ピリオドインスツルメンツらしいキレやスピード感に加えて，マッ シヴな響きの量感や，シリアスな音の佇まいもあって，演奏表現の真摯さと， 音響としての劇的さとインパクトに圧倒される思いがします。 独唱陣も，総じて作品にストレートに切れ込んでいくような歌いぶりで，声 量にも歌唱力にも不足は無く，演奏全体のコンセプトにもマッチしており，さ らにはガーディナーの長年の手兵であるモンテヴェルディ合唱団が聴かせる， 高度な技量に裏打ちされた鮮やかな表現力には，ただただ驚くばかりです。 この演奏は要するに，ピリオドインスツルメンツのキレとスピード感と，モ ダンオーケストラの量感のある劇性とが相兼ね備わった，まさに鬼に金棒とい うべき演奏であり，とにかく聴いていて，気持が高ぶり鼓舞されて，この作品 独自の，意志の力によって信仰心を圧倒するかのような決然とした思いに駆ら れて，その気持をぶつける先を探すのに困ってしまうほどです。 私はこの作品が大好きで，様々な録音を聴いてきましたが，未だにクレンペ ラー指揮，フィルハーモニア管ほかによるＥＭＩ録音が圧倒的な高峰として聳 え立っており，他のあまたの演奏はその足下にも及ばないと思い続けてきたの ですが，ついにそのクレンペラー盤を凌駕すると言っても過言ではない演奏が 現出したことに，興奮する気持ちを抑えられません。 それにしても，ガーディナーはいつの間にか，これほどの演奏を行いうるほ どの指揮者になっていたとは，まさに驚くべきことと言うべきなのか，あるい は単に自身の不明を恥じるべきなのかはよく分りませんが，いずれにしても， 巨匠不在などと言われる現代にあって，このような演奏を実現してくれる指揮 者が存在するということは，何と幸いなことなのだろうと思わずにはいられま せん。 録音については，ＳＡＣＤではなく通常のＣＤなのが残念ですが，ＣＤの音 質としては大変に秀逸で，響きの質感も比較的良く，何よりも反応の良い音質 で演奏の姿を伝えており，聴いていて特段の不満を感じません。 そんなわけで，これはついに登場したベートーヴェンのミサ・ソレムニスの 圧倒的名演であり，今現在においてこんなに素晴らしく圧倒的なベートーヴェ ン演奏が有り得ることとは，私にとっては驚きであり，啓示であり，これを聴 かれた方々は斉しく同様に感嘆されるであろう１枚として強力に推薦したいと 思います。
2013.12.22
