神尾真由子のパガニーニのカプリース
◎パガニーニ ２４のカプリース 作品１ 神尾真由子（ヴァイオリン） <2009.2.19-22> RCA BVCC 40001/2 (CD & DVD) RCA BVCC 40003 (CD) ２００７年の第１３回チャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門 で優勝し，昨年，ソニーＢＭＧと専属録音契約を締結した神尾真由子の第２弾 となるＣＤが発売になりました。今回のリリースでも前回同様に，メイキング 映像のＤＶＤとの２枚組と通常のＣＤとで発売されています。 今回の曲目はパガニーニの２４のカプリース全曲という大変に意欲的なもの で，これはヴァイオリニストのテクニックとエンターテイナーな表現力が如実 に表れる作品でもあり，どれだけの演奏を成しえているのか楽しみです。 さっそく聴いてみると，技術的な不安はいささかもなく，明瞭で力強い演奏 によって作品をくっきりと描き出しており，表現意欲とパッションが，これで もかというほどに伝わってくる演奏です。 これほど主張が明快で，確固たる造形を持った演奏であれば，あまたあるこ の作品の録音の中にあっても，独自の個性と存在意義を持った演奏であること は論を待たないのですが，私自身がこの演奏を心置きなく楽しめたかというと， 実はそうではないのです。 この演奏は非の打ち所がないほど見事なものである一方で，繊細さやニュア ンスに欠ける，技術的には問題のない演奏であるはずなのにスピード感がない， 弱音では単に音が小さくなるだけで音としての表現力が弱い，といったことを 感じてしまったのも事実です。 実は，こういった神尾真由子の演奏上の特色については，昨年発売されたデ ビュー録音を聴いた際にも「エネルギッシュで明快で，屈託のない健全さに 満ち溢れた堂々たる演奏」と感じていたところでした。 さらにその後，神尾真由子のリサイタルを聴いたのでしたが，ＣＤで感じて いた以上に力任せに押さえつけるような強引な演奏で，図太いだけでニュアン スのない表現には辟易としてしまったのでした。 このリサイタルを聴いたときには，もう神尾真由子の演奏は聴かなくてもい いかな，と思ったのですが，前途有望な若手奏者であり，今回の録音での進境 を期待して聴いてみたのですが，やはり基本的な演奏のキャラクターが変わる ものではなく，力で押さえつけるような演奏だなと思ってしまいました。 音質については，リアルで厚みや質感のあるヴァイオリンの音色を聴くこと のできる優秀録音であり，聴き応えも十分なのですが，ＳＡＣＤではなく通常 のＣＤであることで，その音質がいくぶん薄められていることが逆に幸いして 神尾真由子の演奏の強引さが薄められて，聴きやすくなっているのではないか とも思いました。 そんなわけで，これは神尾真由子の鮮やかなテクニックと表現力が十全に発 揮された演奏を聴くことのできる充実の録音であり，これに満足できればよい のですが，私のように強引でニュアンス不足と感じてしまうこともあるかもし れませんし，あとはご自身の耳で聴いて判断されてはいかがかと思います。
2009.7.12
