イリーナ・メジューエワのベートーヴェンのピアノ・ソナタ録音第２弾
◎ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第３番 第１９番 アレグレット ハ短調 ＷｏＯ５３ ピアノ・ソナタ第８番「悲愴」 第５番 第２０番 第９番 第２１番「ワルトシュタイン」 イリーナ・メジューエワ（ピアノ） <2007.11 & 2008.4,6,7> 若林工房 WAKA-4129〜30 ロシアのゴーリキー出身で現在は日本を本拠地として演奏活動を行っている イリーナ・メジューエワ（Irina Mejoueva）の，ベートーヴェンのピアノ・ソ ナタ録音の第２弾となる２枚組です。このシリーズ第１弾のＣＤも大変素晴ら しい演奏でしたので，今回の録音にも期待が高まります。 さっそく聴いてみると，前回の録音と同様に，落ち着きのある響きと明快な タッチによって作品を明快に描き出していますし，力感にも不足はなく，毅然 とした姿勢で作品にアプローチしつつ，的確な演奏表現がつくり出されていま す。 これは継続して行われている録音のシリーズですので，その演奏の特色が前 回の録音と同様であっても何ら不思議ではないのですが，今回の収録曲を見る と，「悲愴」や「ワルトシュタイン」といった，エモーションやロマンティッ クな表現，華やかな演奏効果などを要求される作品が含まれており，前回のよ うな私心のない演奏というだけでは，作品を描ききれないのではないかと懸念 する気持がありました。 それで実際に聴かれた演奏はというと「悲愴」では，沈着で毅然とした演奏 姿勢はいささかも揺るぐことなく，十全な音の強度とタッチの切れ味とによっ て，リアリティある表現の中にもエモーションの垣間見える演奏をつくり出し ており，身の引き締まる思いで聴き入ってしまいました。 「ワルトシュタイン」でも，作品にふさわしいスケール感があり，のびやか に朗々と旋律が描き出されていると同時に，パッセージの敏捷性とキレも申し 分なく，積極的で覇気があって聴いていて元気になる演奏を堪能させてくれま した。 この第２弾のＣＤも，真摯で格調高い演奏に惹き付けられ，２枚のＣＤを一 気に聴き通してしまいました。これらの演奏はシンプルでオーソドックスなも のでありながら，演奏の的確さと，作品の姿を明快に再現するという意味での 演奏の完成度の高さは比類無いもので，これほどの演奏が身近に存在するピア ニストによって実現されているということは奇跡的な幸せではないかと思われ てなりません。 音質に関しては，このレーベル独自の深みのある濃密な響きを今回も聴くこ とができ，この比類ない演奏の姿を的確に捉えた優秀録音です。毎度述べてい ることですが，これほどの優秀録音であれば，ぜひともＳＡＣＤで聴いてみた いものです。 そんなわけで，これはベートーヴェンのピアノ・ソナタのスタンダードな演 奏であるだけでなく，瑞々しい感性で虚心に作品にアプローチした，聴いてい て心洗われる思いのする類い希な名演としてぜひとも一聴をお薦めしたいと思 います。
2009.2.15
