蔵島由貴のラフマニノフのピアノ協奏曲第２番のライヴ録音
◎ラフマニノフ ピアノ協奏曲第２番 <2007.4.5> 蔵島由貴（ピアノ），タマーシュ・ガル指揮， ブダペスト・コンサート・オーケストラＭＡＶ 東芝EMI TOCE-56016 これは２００６年にピアニストとして本格的に活動を開始した，蔵島由貴の ２枚目のＣＤです。今回はラフマニノフのピアノ協奏曲第２番にチャレンジし ています。デビューＣＤは素晴らしい内容でしたが，今回は重量級の作品をど のように演奏するのか注目です。かつしかシンフォニーヒルズのモーツァルト ホールでのライヴ録音です。 ボーナストラックとして，フォーレの「夢のあとで」を演奏している映像が ＭＰＥＧ１形式で収録されています。これはパソコンで再生可能です。 さっそく聴いてみると，冒頭の和音から響きが軽いな，といった印象があり， しっかりと低音まで出てはいるのですが，音に余裕がなく，いっぱいいっぱい といった感が拭えず，この部分を聴いただけでも大丈夫かな？と思ってしまい ました。 しかしながら，リリカルな旋律を持ち前のやや深いタッチを活かした，美し い音色で歌い上げていて惹き付けられますし，素早いパッセージを弾きこなす 際のテクニックはトップレベルとはいいがたいのですが，何よりも作品に対す る敬虔な気持をもって果敢にチャレンジしている姿に打たれる思いがします。 正直なところ，蔵島由貴は未だこの作品を演奏するほどの力量を備えるには 至っていないと言わざるを得ないのですが，それでも，臆することなく作品に 正面から対峙して持てる力を十二分に発揮し，聴く者の心を捉える力強くて美 しいカンタービレを聴かせており，その心意気と努力を讃えたい気持です。 タマーシュ・ガル指揮のブダペスト・コンサート・オーケストラＭＡＶによ る演奏は特に優れたものとは言い難く，決して手を抜いているわけではないの ですが，最低限の伴奏の役割を果たしているだけといった感じの演奏であるこ とは否めず，もう少し感興をつくりだしてほしかったという思いが拭えません。 それにしても，このＣＤを聴いていて疑問に感じてならないのは，どうして このようなＣＤを製作したのだろうということで，現在の力量でこの作品の録 音にチャレンジするのは時期尚早と思われますし，その録音も千人ほどのホー ルで，なじみのないオーケストラとの共演をライヴで収録するというものであ り，さらには，このＣＤの収録時間は３５分ほどでしかなく，その分だけ価格 が廉価（税込み２０００円）だとしても，中途半端なものを制作したように思 えてなりません。演奏終了後の拍手には一部ブーが交じっていました。 そんなわけで，これは蔵島由貴のピアノ演奏のタッチの味わい深さと美しさ や，真摯な演奏姿勢といった面において聴き手の心を打つ演奏であり，私自身 も聴いて大満足ではあったのですが，この作品のライヴ録音としての出来映え となると貧相な感は否めず，あえて蔵島由貴の演奏を聴きたいという方にのみ お薦めできるＣＤではないかと思います。
2008.1.14
