カラヤンとウィーンフィルの唯一の来日公演のＤＶＤ
◎ブラームス 交響曲第１番 <1959.10.27 旧ＮＨＫホール> 交響曲第４番 シューベルト 交響曲第８番「未完成」 <以上：1959.11.6 日比谷公会堂> ベートーヴェン 交響曲第５番「運命」第１，３楽章リハーサル ニュース映像（ＢＧＭ：1959.10.27のアンコールの「美しき青きドナウ」） カラヤン指揮，ウィーンフィル NHK CLASSICAL NSDS-9480 ＮＨＫのアーカイヴに保存されている貴重な映像をＤＶＤでリリースする， ＮＨＫクラシカル・レーベルの第１回発売のうちの１点で，カラヤンとウィー ンフィルの初来日の際の演奏会が収録されていますが，結局これが両者による 唯一の来日公演となりました。 なお，ウィーンフィルはこのときが初来日ではなく，１９５６年にヒンデミッ トとともに来日公演を行っていますが，その際は中規模の編成でしたので，フ ル編成での来日は始めてということになります。 収録内容のうち，ブラームスの交響曲第１番は第４楽章のアレグロ・ノン・ トロッポ・マ・コン・ブリオの主要部（６２小節目）以降がＮＨＫ教育テレビ の「２０世紀の名演奏」シリーズの第１夜「衝撃の初来日〜それはカラヤンか ら始まった」（１９９９年１月４日放映，同年１２月３１日再放送）で放映さ れていましたが，それ以外は初めて視聴する映像です。 今回収録されている演奏会の映像も残念ながら完全ではなく，以下の部分が 静止画に置き換えられています。 ・ブラームスの交響曲第１番 １楽章の全部が静止画。第４楽章の序奏部の最 後（６１小節目）で２秒ほど画像が停止 ・ブラームスの交響曲第４番 第４楽章の開始直後から７０小節目の途中まで が静止画 ・未完成交響曲 映像があるのは第１楽章の３０９小節目まで。以降は静止画。 音声については，旧ＮＨＫホールで収録されたブラームスの交響曲第１番と アンコールの「美しき青きドナウ」は，映像と同時収録されたステレオ音声が 用いれており一段と優れた音質で聴くことができるのですが，それ以外は映像 フィルムの音声トラックを使用しています。 さっそく視聴してみると，最初のブラームスの交響曲第１番は，第１楽章が 静止画なのは残念ですが，ゾクゾクするような臨場感のある音質で聴くことが できますし，肝心の演奏も，この作品からはなかなか聴けないような，鮮烈で シェイプアップされた響きと，弾けるようにフレッシュな表現を聴かせており， カラヤンの演奏に懸ける意欲と美意識がビシビシと伝わる刮目すべき演奏であ り，私も慄然としながら聴き，見入ってしまいました。 続いて収録されているブラームスの交響曲第４番は，モノラル音声でレンジ も決して広くはありませんが問題なく聴ける音質です。演奏の方は音質のせい もあって，いまひとつ分りにくい面があるのですが，感傷的にならずにすっき りとしたソノリティの演奏を行っており，さらにはウィーンフィルのしなやか な持ち味が加わった，毅然とした美しさと説得力のある大変充実した演奏では ないかと思います。 しかしながら，この演奏では交響曲第１番のときのよなシャープな切れ味よ りも，ゆったりとした丸みのあるアンサンブルが聴けて何だかオールドスタイ ルな雰囲気を感じるのも事実で，これは作品の違いやカラヤンのアプローチの 違いだけではなく，コンサートマスターが第１番のときはボスコフスキーだっ たのが第４番では重鎮のフリッツ・セドラックであるせいなのかもしれません。 第４番と同日の演奏である未完成交響曲では，カラヤンの洗練された指揮と， ウィーンフィルの柔らかな響きやしなやかなフレージングが相まって，毅然と した面持ちの中にも夢のように美しい表現が描き出されていて，ただただ聴き 惚れてしまいました。これも稀代の名演といいうる素晴らしさだと思います。 次にベートーヴェンの運命交響曲のリハーサルの様子が収録されています。 第１楽章の提示部の終わりのところら数秒演奏された後，第３楽章が繰り返し 演奏されます。ステージの正面からカラヤンの後ろ姿とウィーンフィルを捉え ていますが画像はピンボケ気味です。 最後にカラヤンとウィーンフィルの空港への到着から出国までのニュース映 像が収録されています。ＢＧＭは１０月２７日のアンコールで演奏された「美 しき青きドナウ」だとのことで，これも鮮明なステレオ音声で聴くことができ ます。演奏はボスコフスキー指揮の演奏に近い印象です。 こうして収録された映像をひととおり視聴してみると，一昨年にベルリンフィ ルと来日したときのカラヤンとはかなり印象がことなっており，これはオケが ウィーンフィルであることや，前年に結婚したエリエッテ夫人との来日だった こともあるのかもしれませんが，カラヤンの指揮はより柔軟になり，前をつぶっ ていることも多く，身振りはまだ大きいものの，後年のカラヤンの指揮を彷彿 とさせる雰囲気があるのではないかと思いました。 また，肝心の演奏については，カラヤンもウィーンフィルも全力を尽くした 実に見事なもので，これほど充実した演奏を収録した録音や映像はなかなか無 いのではないかと思えるほどでした。 そんなわけで，これはカラヤンとウィーンフィルの唯一の来日演奏の記録と いう点で貴重なだけでなく，収録されている演奏も掛け値無しに素晴らしいも ので，後年のカラヤンからは聴くことのできない溌剌とした充実の演奏が堪能 できる素晴らしい１枚であり，一昨年のベルリンフィルとの初来日公演を収録 したＤＶＤともどもぜひともご覧いただきたい１枚だと思います。
2006.6.25
