チョン・ミュンフン指揮フランス国立放送フィルの「ダフニスとクロエ」
◎ラヴェル バレエ「ダフニスとクロエ」全曲 チョン・ミュンフン指揮， フランス国立放送フィル＆合唱団 <2004.11> GRAMMOPHON UCCG-1286 ドイツ・グラモフォンと専属録音契約を締結しているチョン・ミュンフンの 新譜です。今回は自ら音楽監督を務めるフランス国立放送フィルを指揮しての ラヴェルの名作「ダフニスとクロエ」全曲ということで，このコンビがどんな 演奏を聴かせてくれるのか大変楽しみです。このＣＤは日本先行発売で，本家 ドイツ・グラモフォンからは８月に発売される予定です。 さっそく聴いてみると，チョン・ミュンフンは作品に対する明快なビジョン をもって，精妙さとダイナミックさとエスプリ豊かな表現をオケから引き出し ており，シャープかつ鮮明なアンサンブルをもって作品の世界を鮮明に描き出 していますし，さらにはやや硬質な光沢を放つクリヤーな響きは息を呑むほど に美しく，ただただ聴き惚れるばかりでした。 とにかくオケの安定感は抜群で，弱音での透明感のある洗練された響きから フォルテに向かっていささかの崩れもなく，合唱も過度に目立たない，やや控 え目の歌いぶりも効果的で，ストーリーの各々の場面を鮮明に描き出していて， 聴き手を惹き付けて離さない魅力と説得力がありますし，オケのやや硬質な響 きは作品のアルカイックな世界を見事に演出しています。 この作品は初演者のピエール・モントゥー以来，フランス内外の指揮者やオ ケによって数多くの録音が残されており，優れた名演にも事欠かないところで すが，この演奏は，現代のオケの技術の高さと，フランスのオケならではの洗 練された表現と，的確かつ精妙な指揮とによって，まさに今の時代においての み可能な演奏の姿を最良の形で実現しているのではないかと思います。 これほどの名演でありながら，残念ながら音質は最良とは言い難く，音の美 しさや，幅広いダイナミックな表現が聴けるのはよいとしても，全般に窮屈で 詰まったような音質であり，音色のニュアンスや実在感もいまひとつで音が硬 く，最新のデジタル機器を使用した録音のはずですが，技術を過信し，聴感を 軽視した録音ではないかと思えてなりません。 そんなわけでこの録音は，音質の面ではいまひとつの感はあるとしても，こ の作品の録音としてはモントゥー，アンセルメ，ミュンシュ，ロザンタール， クリュイタンス，マルティノン，デュトワ，ブーレーズなどの名演に優るとも 劣らない優れた演奏と言えるだけでなく，チョン・ミュンフンの指揮の下，現 在の演奏において初めて可能となった，鮮明で洗練されたアンサンブルの魅力 が遺憾なく発揮された，画時代的名演と言っても過言ではない，類い希なる名 演として，そして何よりも聴いてその魅力に強力に惹き付けられるに違いない 名演として強力に推薦したいと思います。
2006.4.16
