サラ・チャンとラトル指揮ベルリンフィルのショスタコとプロコの協奏曲
◎ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第１番 <2005.9.14-20> プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第１番 <2005.6.15-17> サラ・チャン（ヴァイオリン）， ラトル指揮，ベルリンフィル 英EMI 3 46053 2 ９歳で最初のレコーディングを行って以来，ゆっくりとしたペースで録音を リリースしてきているサラ・チャン（Sarah Chang, 1980-）の最新録音です。 いずれも昨年のベルリンのフィルハーモニーホールでのライヴ録音で，今回は ラトル指揮のベルリンフィルとの協演という点でも注目です。 さっそく聴いてみると，最初のショスタコーヴィチの協奏曲第１楽章では， この作品独自の荒涼としたシリアスな世界を真摯に描き出していると同時に， 持ち前のウォームでしっとりとした味わいの音色と，包容力のある表現によっ て，毅然とした中にも優しさを感じるき演奏を作り上げていて，聴いていて心 に染み入る演奏ではないかと思います。 第２楽章においては，ややドライな表現で果敢な演奏を聴かせているのです が，それでも美しいソノリティが失われることはなく，キレの良いキリリとし た表現と相まった，美しくも充実した演奏を聴くことができました。 第３楽章は，サラ・チャンの，やや控えめながらも確固とした主張の伝わる， しなやかでエモーショナルな表現が実に印象的で，カデンツァにおいても，美 しく毅然とした表現と表出力があって傾聴させられます。 そして第４楽章においても，伸びやかに，そして存分に旋律を描き出してお り，作品の表現として決して過不足はないのですが，なによりもサラ・チャン 独自の音色や歌い口の魅力に惹き付けられます。 ラトル指揮のベルリンフィルも，持ち前の高度な技量を十二分に発揮しつつ も，エキセントリックさを抑えて，作品に正面から対峙した実に真っ当な演奏 でソロを巧みに支えており，個性的で確固とした表現の世界を持ったサラ・チャ ンの演奏の魅力を十二分に引き出しながらも，演奏全体の解釈や表現について は，明快なビジョンをもってまとめ上げているといった印象でした。 続いてプロコフィエフの協奏曲が収録されていますが，この作品の第１楽章 では，美しいソノリティはそのままに，曲趣に応じた鮮やかで自在な表現を聴 かせているのが印象的ですし，第２楽章も軽やかで反応の良い演奏で，リズミ カルに小気味よくフレーズを刻み込んでいくテクニックのキレも鮮やかで，サ ラ・チャンの果敢に作品に切れ込んでいく演奏を聴くことができました。 第３楽章ではドライにならずに，しっとりとした音色を存分に鳴り響かせて いて惚れ惚れとする思いですし，全２楽章同様に自在で鮮やかな表現も随所に 聴かせていて，大変聴き映えのする演奏でした。 この作品でのラトル指揮のベルリンフィルは，反応の良い鮮やかな演奏でサ ラ・チャンを触発し，切れ味の良い演奏を弾き出している感があり，その意味 ではラトルとベルリンフィルが演奏を主導しているような印象がありました。 こうして聴いてみると，相変わらずサラ・チャンの演奏は実に美しく魅力的 で，さらに年齢とともに成熟した味わいを聴かせてくれていると思いますし， 特に今回はラトル指揮のベルリンフィルがサラ・チャンの演奏を見事にサポー トしており，これはまさにこの組み合わせでのみ可能な鮮やかな名演を堪能す ることができる，充実の１枚として強力に推薦したいと思います。
2006.2.18
