佐渡裕指揮パリ管の幻想交響曲ライヴ
◎ベルリオーズ 幻想交響曲 <2002.3.6-7> 佐渡裕指揮，パリ管 AVEX CLASSICS AVCL-25029 エイベックス・クラシックから佐渡裕指揮パリ管のライヴ録音が発売になり ました。演奏会場はパリのサル・プレイエルで，曲目は何と幻想交響曲という 大変に挑戦的なものです。エイベックスの音盤ですがＣＣＣＤではなく通常の ＣＤです。 さっそく聴いてみると，第１楽章では，この楽章独自の熱に浮かされたよう な情念の世界を描き尽くすといったタイプの演奏とは異なり，軽やかな旋律線 と跳ねるようなリズム感によって，大変に新鮮かつ生気のある表現を聴かせて おり，聴いていてワクワクさせられます。 第２楽章では逆にやや落ち着いたテンポで，やや荘重に感じられるくらいに ゆったりとしたワルツで弾き進められていくのですが，パリ管の華やぎのある 響きが魅力的ですし，後半の全休符の後（２３３小節目）あたりからは一段と 精彩を増して華麗な演奏が味わえました。 第３楽章も心象風景を描き出すような雰囲気ではなく，絶妙にコントロール された響きのテクスチュアで聴かせるといった傾向のもので，ダイナミックな 変化やソロの味わい深い妙味もなかなかに見事ではあるのですが，演奏が音の レベルでのコントロールにとどまっているからなのか，聴いていていまひとつ 作品の世界に入りきれない思いがしたのも事実です。 第４楽章になるとダイナミックで引き締まった，切れ込み鮮やかな響きで迫っ てきているとともに，曲趣に応じて巧みに音のストーリーを創り出していて惹 き込まれますし，演奏としてはかなり明朗な印象であり，怪奇的な趣はあまり 感じられません。 第５楽章もダイナミックで切れ込みのある演奏を行っており，この楽章の魔 女的な雰囲気は感じられませんが，積極果敢なアプローチによって，めくるめ く音のスペクタルを作りあげていて思わず惹き込まれてしまいます。演奏終了 後には口笛混じりの大喝采が湧き起こっていました。 こうして聴いてみると，この演奏の特徴は明快で，胡乱な雰囲気で作品を描 き出すのではなく，自らの技量と解釈によって明解で活き活きとした演奏を作 りあげており，その明るく華やかな響きの魅力，沸き立つリズムと旋律の魅力 には抗しがたいものがあります。 この演奏は，一面では感覚的に心地よい演奏であり，それゆえパリの聴衆に 強力に支持されたということなのかもしれませんが，私自身は聴いていて，こ の作品の演奏としてこんなに明るくあっけらかんとしていていいなかなという 気持を抱いてしまったのも事実です。 そんなわけで，このライヴ録音はシリアスに作品を追求しようというもので はありませんが，それを望むなら別の演奏を聴けばよいのであり，佐渡裕の真 骨頂ともいうべき積極果敢でダイナミックな演奏が堪能できる，実にスリリン グで爽快な１枚であることは疑いなく，ぜひとも一聴をお薦めしたいと思いま す。
2005.1.25
