シュテファン・ヴラダーのブラームス晩年のピアノ曲集
◎ブラームス ７つの幻想曲 作品１１６ ３つの間奏曲 作品１１７ ６つの小品 作品１１８ ３つの小品 作品１１９ シュテファン・ヴラダー（ピアノ） 仏HARMONIA MUNDI HMC 901844 最近になって仏ハルモニアムンディに録音するようになったシュテファン・ ヴラダー（Stefan Vladar, 1965-）の最新録音です。今回はブラームス晩年の ピアノ曲集をまとめて演奏していますが，これらの曲の録音は決して多いとは いえませんし，晩年のブラームスがこれらの作品に託した澄みきった観照の世 界をどのように演奏しているのか大変楽しみです。 さっそく聴いてみると，まだ４０歳前のヴラダーの演奏は，枯淡や諦念の境 地を描き出そうとするわけでも，しみじみとした感傷に浸ろうとするわけでも なく，自らの感性で虚心に作品にアプローチしていると同時に，細部まで検討 を重ね，１つ１つの打鍵に至るまで練り上げられ，コントロールされた演奏を 行っています。 そしてこの演奏は，明朗なソノリティと，絶妙な強弱のコントロールと，違 和感のない有機的なフレージングによって，この作品を大変に美しく味わい深 く，そしてポジティヴに描き出しており，聴いていて心洗われ，爽やかな感懐 の残る演奏ではないかと思います。 実は私自身，このブラームスの晩年のピアノ曲集は大の愛聴曲で，控えめに 表現された情感に癒され，あるいは黄昏れる思いで拝聴しているのですが，こ の演奏の非感傷的で明快で美しく余韻を引く表現にも劣らぬ魅力を感じますし， 作品の別の一面に気付かせてくれているようにも思います。 そんなわけでこの録音は，ヴラダーが明快なコンセプトの下，素晴らしいセ ンスと技量を示していると思いますし，達観した演奏を聴きたいという場合に はそぐわないかもしれませんが，明朗で絶妙な味わいをもった名演として一聴 をお薦めしたいと思います。
2005.1.24
