アーノンクール指揮ウィーンフィルのブルックナー５番ライヴ
◎ブルックナー 交響曲第５番 アーノンクール指揮，ウィーンフィル <2004.6.10-14> 独RCA 82876 60749 2 アーノンクール指揮のブルックナーの交響曲録音の新譜で，昨年６月のウィ ーン芸術週間のムジークフェラインザールでのライヴ録音です。アーノンク ールんぼブルックナーはこれまで第３，４，７〜９番が発売されているとこ ろですが，ウィーンフィルとは第９番に続き２つ目となります。用いている 版はハース版とノヴァーク版を踏まえた新しいクリティカルエディションと いうことです。 また，今回も前回の第９番のときと同様にＳＡＣＤハイブリッド盤で，さ らにリハーサルを収録したＣＤを加えた２枚組で１枚分価格というお買い得 です。 さっそく聴いてみると，録音が大変素晴らしく，緻密で雄大な響きを堪能 できるのすが，反面，ダイナミックレンジの非常に広い録音であり，冒頭の 低弦のピツィカートが聴こえる音量で再生すると，フォルテでは大音量とな るので再生に当たっては注意が必要です。 演奏の方ですが，ここでのアーノンクールは，アグレッシヴな表現意欲や エキセントリックさを感じさせることもなく，ウィーンフィルからいつも以 上にクリヤーでスマートな響きと機能性を引き出しており，すっきり爽快と した演奏を聴かせてくれています。 このすっきり感は，ウィーンフィルの清澄な響きに加え，奏法として１つ １つの音をじっくりと刻み込むよりも浅めにサッサと刻みつつ弾き進められ ているこや，フォルテの一撃のスピード感といった，アーノンクールの演奏 上の特徴によって描き出されているのですが，それが大変心地よく耳に響き ます。 そして，この演奏を聴いていて私が強く感じるのは，過去のブルックナー 演奏にとらわずにリファインされた作品の姿をつくり上げているということ 以上に，この演奏が作品の再現として何ら異端なものではなく，今現在の感 覚で作品をオーソドックスに再現しているのではないかと思えることです。 アーノンクールが聴き慣れた作品の新たな切り口を聴かせてくれることは 今回に限ったことではありませんが，この演奏は広汎な聴き手に受け入れら れる違和感のない表現と，この巨大な作品全体をクリヤーに見通した，爽快 なスケール感をもって描き出しており，作品が生まれ変わったかのような新 鮮な感懐をもって聴くことができるのではないかと思います。 また，この演奏でのスコアは，新たなクリティカルエディションを用いて いるということですが，聴いていて従来と特に異なっていたのは第２楽章の 終わり方で，通常は最後から２小節目で演奏を終えるフルートとクラリネッ トが音の引き延ばしながら最後の音まで演奏しています。そのため全体の聴 こえ方としては，通常は「ター・タ・タ・タ・タ・ター・タ」と終わるので すが，この演奏では「ター・タ・タ・ターータ・タ」となっています。 演奏時間は全部で７３分強で，この作品の演奏としては速めですが，聴い た感じでは停滞感のない軽快な演奏であり，そんなに速いという印象ではあ りません。第３楽章のみは多少速めのテンポでキビキビと進められています。 いろいろ述べてしまいましたが，この演奏はアーノンクールの指揮者とし ての深化した音楽づくりと，すっきりした演奏であると同時に精妙極まりな 表現を聴かせるウィーンフィルの妙味と，リファインされた新鮮味のある作 品の姿を堪能できる，とびきりの名演であり，聴き手に未来への希望すら感 じさせてくれる１枚として強力に推薦したいと思います。
2005.1.16
