スヴェトラーノフ指揮ハーグ・レジデンティ管のアルプス交響曲
◎Ｒ・シュトラウス アルプス交響曲 交響詩「ドン・ファン」 スヴェトラーノフ指揮，ハーグ・レジデンティ管 <1995.1.26-2.2> 蘭HET RESIDENTIE ORKEST RO 95-1 ハーグ・レジデンティ管の自主制作ＣＤで，首席指揮者であったスヴェトラ ーノフとのライヴ録音です。これは数年前の制作のようですが，ＨＭＶ仙台一 番町店の新譜コーナーに並んでいるのを見つけて入手してきました。 さっそく聴いてみると，最初のアルプス交響曲では，非常に真っ当な演奏で あると同時に，作品に対する素晴らしい共感を示しており，スケール感のある パースペクティヴの下で朗々と旋律を歌いきっており，スヴェトラーノフなら ではのフォルテでの刻み込みは迫力十分ですし，引き締まったアンサンブルに よって，変化に満ちたアルプスの１日の光景を畏敬の念をもって雄大に描き出 した傾聴すべき演奏が繰り広げられています。 ところが大変残念なことに，この録音は音質がよくありません。最新のデジ タル機器を使用しているのでしょうし，物理的な特性に劣るわけでもないので すが，マイクセッティングに問題があったのか，あるいは機器のどこかにアク シデントでもあったのか，音が遠くて，靄の向こうでなっているような印象で， 特に低弦は気の抜けたような，聴いていて思わず落胆してしまうような音質な のは大変残念です。 続いて収録されているドン・ファンは，聴き始めこそオーソドックスな印象 があったのですが，スヴェトラーノフのタクトにオケが俊敏に反応しています し，ロマンティックな旋律をじっくりと心ゆくまで歌い上げている一方で，フォ ルテのアタックには強烈なインパクトがありますし，明るく抜けるようなオケ の響きも素晴らしく，演奏の隅々にまでスヴェトラーノフのロマンティズムが 浸透した，大変に充実した音のドラマを聴かせてくれています。 残念ながら，こちらの音質もアルプス交響曲同様に決して良好なものではあ りません。特に弦楽器の音の薄さは，聴いていてやはり気が抜けてしまいます し，少なくともプロフェッショナルな録音でこういった音質の録音を聴くのは 初めてですし，いったい何が原因なのかもよく分らないのですが，いずれにせ よ，このＣＤの録音を聴く際は，決して良好とはいえない音質の向こうにある 演奏を聴き取ろうとする努力が必要なように思います。 そんなわけで，このＣＤに収録された演奏は２曲とも素晴らしい名演だと思 います。しかし，音質に難があるのも事実なので，音質面での満足感を求めら れる方にはお薦めできませんが，音質にとらわれず，演奏の内容が肝心と思わ れるのであれば，いずれもスヴェトラーノフの持ち味が遺憾なく発揮された， 素晴らしく充実した名演が聴けるものなので，ぜひとも聴いてみてはいかがか と思います。
2002.12.15
