アモワイヤルとチュウのブラームスのヴァイオリン・ソナタ
◎ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第１〜３番 Ｆ・Ａ・Ｅのソナタ〜スケルツォ ピエール・アモワイヤル（ヴァイオリン）， フレデリック・チュウ（ピアノ） 仏HARMONIA MUNDI(USA PRODUCTION) HMU 907272 ここのところ，ハルモニア・ムンディに録音を行うようになってきている， ピエール・モワイヤルとフレデリック・チュウのデュオの新譜で今度はブラー ムスのソナタが発売になりました。このデュオのＣＤというと，一昨年発売さ れたグリーグのソナタの録音のＣＤ感想を書き込んでいました。 アモワイヤルの演奏というと，やや線は細いもののノーブルな音色と歌い口 を聴かせている印象があるのですが，このＣＤでの演奏は多少趣が異なってい て，持ち前の洗練された音色はそのままながら，大きな弧を描いて，包み込む ような柔らかさと優しさの感じられる演奏であることに驚いてしまいました。 さすがにアモワイヤルの演奏するブラームスは，野暮天のようなところは微 塵もなく，作品のもつ晦渋さや，渋い枯淡の作風に呑み込まれることもなく， 澄明でニュアンス溢れる演奏を聴かせており，しかもそれは作品に対する共感 と思い入れから表れ出ていることが実感できて，これは演奏家としてのアモワ イヤルの見事に熟成した味わいというほかないのではないかと思います。 フレデリック・チュウのピアノも，持ち前のクリヤーで克明な演奏であるだ けでなく，ここではニュアンスの含みを持ったハーモニーの微妙な変化が実に 鮮やかで，チュウがこんなに味わいのある演奏を聴かせてくれていたとは，こ れまで全く認識していなかったので，これは嬉しい驚きでしたし，その演奏自 体は多少重めの印象がなくはないのですが，それがこのアンサンブルに安定感 をもたらしていますし，微妙に触発し合っているスリリングさを静かな興奮と ともに感ることのできるものでした。 そんなわけで，このＣＤでの演奏は，ベテランの域にあるアモワイヤルが， 自身の流儀でもって美しく伸びやかな世界を鮮やかに描き出した，手練主管を 感じる名演であり，さらには静かに息を呑むようなアンサンブルも聴けて，こ れは多少通向けの演奏かなという気がしないでもありませんが，演奏の妙とい うものを堪能できる１枚として一聴をお薦めしたいと思います。
2002.5.20
