- Ｒ・シュトラウス
- 交響詩「英雄の生涯」
- 歌劇「ばらの騎士」組曲
- 佐渡裕指揮，ウィーン・トーンキュンストラー管 <2015.10.16-20>
- 墺ウィーン・トーンキュンストラー管 TON 1001
佐渡裕は，２０１５／１６年のシーズンからウィーン・トーンキュンストラー管の音楽監督を務めているのですが，両者による録音がさっそく発売になりました。これは同管の自主レーベルからのリリースのようです。
曲目はＲ・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」と，歌劇「ばらの騎士」組曲で，音楽監督就任直後の昨年１０月にレコーディングセッションが行われたもので，就任お披露目の意味合いもあるのでしょうか。
さっそく聴いてみると，最初に収録されている「英雄の生涯」は，伸びやかで悠然とした演奏をつくりあげており，オーケストラの柔らかく美しいソノリティも耳に心地良く，スコアの再現としても十分に克明で，各ソロも味わいのある達者な表現を聴かせ，まさに第１級の出来映えといいうる充実の演奏に仕上がっています。
その一方で，ドラマチックさやインパクトといった面はさほどではなく，穏当な演奏表現に留まっている感もあり，例えば「英雄の伴侶」などは十分に魅力的なのですが，「英雄の戦場」は戦いのスペクタクルを再現するというよりも，弁舌巧みに物語っているような印象ですし，様々なテーマが表れては消える「英雄の業績」では楽想の特色を際立たせるよりも１つの円満な演奏で包み込んでいるような感があって，非常に成熟した印象をもたらす演奏となっています。
続いて収録されている「ばらの騎士」組曲も同様の傾向の演奏ですが，さらに作品にマッチしている感があって，場面描写が巧みというか，すっかり劇の世界に入り込んで，成りきって演奏しているような雰囲気があり，円熟も爛熟もした作品の世界を色濃くリッチに描き出した，見事な演奏を聴かせてくれました。
こうして聴いてみると，佐渡裕とトーンキュンストラー管は，すでに気心知れた一体感のある演奏をつくり出しており，ウィーンの伝統を今に伝えるオーケストラの持ち味が十二分に発揮された相睦まじさすら感じるもので，自主レーベルのＣＤ第１弾のお披露目演奏としても自信作なのだろうと思いました。
なので，これだけ素敵な演奏を収録したＣＤがリリースされて，めでたし，めでたし，というところではあるのですが，この演奏が素晴らしければ素晴らしいほど，これで満足してしまい，さらなる向上が見られなくなってしまうのではないかとか，最初からこんなに良好な関係だと，あとはなれ合いになってしまうんじゃないかとか，さらには，既に佐渡裕はオーケストラに取り込まれてしまっていて，大なたを振るった演奏ができないんじゃないかなどという不安な気持ちも拭えないのでした。
録音については，オーケストラの美しいソノリティを十全に捉え，スケール感も空間の再現も良好で，ＣＤで聴ける音質としては最良のものではないかと思います。あとはＳＡＣＤでの発売でないことだけが残念です。
そんなわけで，これは大変に魅力的で完成度の高い演奏を堪能できる秀逸な録音であることは疑いないのですが，円満すぎるところに一抹の不安を感じないでもない，ちょっと気になる１枚として，ぜひとも一聴をお薦めしたいと思います。
2016.5.29
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