- モーツァルト
- ピアノ・ソナタ第２番 <2014.4>
- ピアノ・ソナタ第４番 <2013.12>
- マエストロ対位法氏の葬送行進曲 Ｋ４５３ａ <2014.4>
- ピアノ・ソナタ第８番 <2014.3>
- ピアノ・ソナタ第３番 <2014.4>
- ピアノ・ソナタ第５番 <2011.6>
- 幻想曲 ニ短調 Ｋ３９７ <2013.9>
- ピアノ・ソナタ第１１番「トルコ行進曲付き」 <2014.3>
- イリーナ・メジューエワ（ピアノ）
- 若林工房 WAKA-4178/79 (2CD)
- モーツァルト
- ピアノ・ソナタ第９番 Ｋ３１１
- 幻想曲 ハ短調 Ｋ４７５
- ピアノ・ソナタ第１４番 Ｋ４５７
- ピアノ・ソナタ第１５番 Ｋ５４５ <以上，2015.7>
- ピアノ・ソナタ第１０番 Ｋ３３０
- 幻想曲 ハ短調 Ｋ３９６
- ピアノ・ソナタ第１２番 Ｋ３３２ <以上，2014.12>
- ピアノ・ソナタ第１６番 Ｋ５７０ <2015.7>
- イリーナ・メジューエワ（ピアノ）
- 若林工房 WAKA-4189/90 (2CD)
- モーツァルト
- ピアノ・ソナタ第１番 Ｋ２７９
- サリエリの主題による６つの変奏曲 ト長調 Ｋ１８０
- ピアノ・ソナタ第６番 Ｋ２８４
- ピアノ・ソナタ第７番 Ｋ３０９
- ピアノ・ソナタ第１３番 Ｋ３３３
- ピアノ・ソナタ第１８番 Ｋ５３３／１９４
- ピアノ・ソナタ第１７番 Ｋ５７６
- イリーナ・メジューエワ（ピアノ） <2015.11-12>
- 若林工房 WAKA-4192/93 (2CD)
ロシア出身で現在は日本を本拠地として演奏活動を行っているイリーナ・メジューエワ（Irina Mejoueva, 1975-）は現在，若林工房から精力的に録音をリリースしているところですが，一昨年からモーツァルトのソナタ全集の録音に取り組んでおり，それが３点の２枚組ＣＤで発売になりました。
メジューエワはすでに，バッハ，ベートーヴェンから近代に至るピアノ曲の主要なレパートリーを録音してきているところですが，モーツァルトの作品というと１９９９年に録音された，トルコ行進曲付きのソナタと小品集を収録したＤＥＮＯＮ盤があっただけでしたので，満を持してモーツァルトの録音に取り組んだということになるのでしょうか。
さっそく聴いてみると，メジューエワのいつもの流儀というべきか，シックでほどよい深みのあるソノリティに乗せて，１つ１つの音をしっかりと鳴り響かせた克明な演奏を行っており，その真摯でストイックな弾きぶりは，聴いていて身が引き締まる思いがするほどです。
ここでのメジューエワは，いつもどおりに楽譜をしっかり読んで，しっかり演奏するということを行っており，モーツァルトのソナタだからといって，徒にピュアな表現であるとか，自然に湧き出ずる感興をつくりだそうなどとはせず，自身の持ち味である深い情感と響きとともに画然と作品を描き出しています。
このメジューエワの演奏を聴いていて何よりも強く感じるのは，浮ついたようなところが微塵もなく，そして自身が培ってきた演奏技術と作品へのアプローチはいささかも揺らぐことなく，毅然とした格調高い演奏を行っていることで，成熟したピアニストがモーツァルトを弾くということの，１つの非常に優れた実例となっているのではないかということでした。
私自身，この演奏を聴いてまさに目から鱗が落ちる思いがしてしまいましたが，モーツァルトを弾くからといって，何か特別なことが必要なわけではなくて，自身のアプローチを変えることなく基本に忠実に演奏すればよいのであり，それで様にならないことがあるとしたら，モーツァルト云々ではなくて，自身の基本的なところを見直すべきかもしれないな，などと余計なことまで思ってしまいました。
反面，これは世の多くのモーツァルト演奏とはかなり異なっている印象であることも否めず，あまりに生真面目で杓子定規で，イノセンスさや愉悦感に乏しく，なんだかモーツァルトというよりはベートーヴェンを弾くときのようなアプローチだなと感じられる面もあるかもしれませんが，むしろこのことこそが，ここでのメジューエワの演奏の素晴らしさと唯一無二さを物語っているのはないかと思われてなりません。
録音についても，メジューエワならではのシックでほどよい深みのあるソノリティを美しく捉えており，それはこのレーベルのいつもの音調でもあるのですが，相変わらず見事なものだと思います。あとは，これが通常のＣＤでありＳＡＣＤでないことだけが残念です。
そんなわけで，これはメジューエワという敬服すべき優れたピアニストによって弾かれた，これまで有りそうで無かった，格調高い画然としたモーツァルト演奏が聴ける，類い希な録音として強力に推薦したいと思います。
2016.5.29
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