- コルンゴルト
- ブリテン
- ヴァイオリン協奏曲
- ヴィルデ・フラング（ヴァイオリン），
ジェームズ・ガフィガン指揮，フランクフルト放送響
<2015.6.30-7.2, 8.28>
- 英WARNER CLASSICS 0825646009213
ＥＭＩやワーナーからＣＤをリリースしている，ノルウェーの女流ヴァイオリニスト，ヴィルデ・フラング（Vilde Frang, 1986-）の新譜で，今回はなんと，コルンゴルトとブリテンのヴァイオリン協奏曲という，２０世紀を代表するヴァイオリン協奏曲の名作２曲がカップリングされているという，大変贅沢な収録内容となっています。
ヴィルデ・フラングは解説書に一文を寄せていて，この２曲は，長年録音したいと念願していたお気に入りの作品なのだそうです。
オーケストラはフランクフルト放送響で，指揮者はアメリカ出身で，現在はルツェルン響の首席指揮者，オランダ放送フィルの首席客演指揮者，ギュルツェニヒ管の首席客演指揮者を務めている俊英のジェームズ・ガフィガン（James Gaffigan, 1979-）です。
さっそく聴いてみると，コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲は，ややキリリと引き締まった音色とともに，くっきりと作品の姿を描き出しながらも，息の長い旋律を朗々と歌い上げていますし，何よりもスケール感豊で伸びやかな世界を描き出しているのが大変に印象的です。
ヴィルデ・フラングはこの作品に対して素晴らしい共感を示しており，自信と確信とを持って，いささかの迷いもなく，思い切りのよい雄弁な演奏を繰り広げており，とても気持ちよさそうに弾いているように思えますし，聴いていて胸の空く思いのする素晴らしい演奏でした。
続いて収録されているブリテンのヴァイオリン協奏曲では，集中度を高めつつ，シリアスなアプローチを行っており，鮮烈でキレのよいフレーズラインと刻みと，作品に対する赤裸々な共感やリスペクトの思いがビシビシと伝わってくる，聴く者に強烈な印象をもたらす演奏であることに驚嘆してしまいました。
この作品に対しても，ヴィルデ・フラングはただならぬほどの共感とともに，没入し，自己投影した演奏を行っており，これはお気に入りの作品というだけにとどまらない，作品の性格と自信のテンペラメントが相通じて，まさに一体となった演奏となっているように思えてなりませんでした。
それにしても，特色の異なるこれら２つの作品に対し，深い理解とのっぴきならないほどの共感をもって，作品と一体化した雄弁極まりない演奏を実現していることに驚くと同時に，ヴィルデ・フラングがこれほどまでにパッションやエモーションを表出しうるヴァイオリニストであることを改めて認識させられました。
ガフィガン指揮のフランクフルト放送は，コントラストやエッジの明解な演奏を行っており，ヴィルデ・フラングのドラマチックな演奏に伍するものではあるのですが，確信に裏打ちされた自在さや雄弁さをもって作品を描き尽くすといった点においては未だしの感も否めず，さらに素晴らしい演奏となる余地は残されているようにも思いました。
録音については，作品や演奏に相応しいスケール感と，ドラマチックな表現を充分に捉えきった優秀録音であり，この演奏に対してはこのようなコンセプトの録音こそが相応しいと思いましたが，敢えて難を言うなら，いくぶん雑で荒っぽい響きになっているところがあったように思います。この点についてはＳＡＣＤやハイレゾで聴くと改善されるかもしれません。
いろいろ述べてしまいましたが，今回はヴィルデ・フラングが特に録音したかった２曲を弾いているということもあり，作品の理解も共感も，さらには演奏表現の真正さと強烈さにもただならぬものがあり，コルンゴルトでは充実した演奏に心満たされ，ブリテンでは戦慄的なまでの表現に打ちのめされる思いのする，恐ろしいまでの名演が聴ける１枚として強力に推薦したいと思います。
2016.5.21
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