ヴァシリー・ペトレンコ指揮，オスロフィルのスクリャービンの交響曲第３，４番
◎スクリャービン 交響曲第３番「神聖な詩」 交響曲第４番「法悦の詩」 ヴァシリー・ペトレンコ指揮，オスロフィル <2015.2.2-7> 諾威LAWO CLASSICS LWC1088 (SACD Hybrid) レニングラード出身の指揮者，ヴァシリー・ペトレンコは２０１３年からオ スロフィルの首席指揮者を務めているところですが，新譜としてノルウェーの LAWO CLASSICSレーベルからスクリャービンの交響曲第３番と第４番をカップ リングした１枚が発売になりました。ＳＡＣＤハイブリッド盤での発売です。 さっそく聴いてみると，最初に収録されている交響曲第３番は，スムーズで 感興にあふれ，知的で冷静な面よりは，この作品独自の官能的，蠱惑的響きと ともに，濃密なロマンティズムや夢見るような表現を，美しく雄弁に描き出し た演奏であることにすっかり驚いてしまいました。 交響曲第４番も，柔らかみのある美しいソノリティと，細やかで反応の良い ソロやアンサンブルによって，秀麗かつドラマチックな演奏をつくりあげてお り，劇的な盛り上がりやスリリングさにも不足はないのですが，それ以上にニュ アンスと詩情に満ちためくるめく表現が印象的で，まさに法悦の思いで聴き入っ てしまいました。 こうして聴いてみると，両曲の演奏とも，うねるような官能性とともにスコ アを鮮やかに再現しており，生気に満ちた表現や感覚的な愉悦感が聴く者の心 を満たしていく，実に印象的で魅力的な演奏であり，聴き慣れていると思って いたこれらの作品が，いかに洗練された濃密な魅力に満ち溢れているかを再認 識させられる思いでした。 一方で，他の多くの演奏で聴かれるようなパワフルさやシリアスさはそれほ どでもなく，やや軟弱乃至はパワー不足と評したとしても，あながち不当なこ とではないとは思うのですが，作品を突き放すのではなく，自然な共感を感じ る入念で積極的で夢見るばかりに美しい演奏というのは，これらの作品の最も 秀逸な再現の在り方の１つではないかと思われてなりません。 何よりも，私自身，聴き始めてから終わりまで，この美しく充実した演奏に たとえようもない愉悦感を覚え，さらには胸をかきむしられる思いで聴き入っ てしまい，ここまで人を虜にしてしまう作品そして演奏というのはいったいど ういうことなのだろうと思わずにはいられませんでした。 その意味では，ペトレンコの作品に踏み込んだ精力的な指揮もさることなが ら，これほどまでに蠱惑的な演奏を待ってましたとばかりに実現してしまって いる，オスロフィルの技量と持ち味には感嘆するほかなく，これは取りも直さ ずペトレンコの指揮の下でオスロフィルの潜在能力がついに露わになったとい えるのではないでしょうか。 ここで聴かれるオスロフィルの美しく充実した響きは，もちろん録音の秀逸 さのおかげで聴くことができるものであり，特にＳＡＣＤレイヤでの，濃密な 空気感や温度感すら感じる，生々しいリアリティには現代の録音水準の素晴ら しさを改めて感じます。ＣＤレイヤも同様の音調で聴くことができるのですが， 音の濃密さや官能性が薄まって淡泊に聴こえるので，上述のような印象を抱き にくいかもしれません。 そんなわけで，これはスクリャービンの交響曲の録音において，かつてない ほどに美しく充実した演奏に心奪われる１枚として強力に推薦したいと思いま す。
2015.12.30
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