小澤征爾指揮，水戸室内管のベートーヴェンの交響曲第２，８番ライヴ
◎ベートーヴェン 交響曲第２番 <2015.5.15&17> 交響曲第８番 <2015.1.16&18> 小澤征爾指揮，水戸室内管 DECCA uml00600406622921 (DSF形式のDSD file, e-onkyoからDL) DECCA UCCD-1421 (Blu-spec CD2) 小澤征爾指揮，水戸室内管による，ベートーヴェンの交響曲第２番と第８番 のライヴ録音が発売になりました。 いずれも水戸芸術館コンサートホールＡＴＭでの演奏会のライヴ録音で，交 響曲第２番は今年の５月１７日と１７日，交響曲第８番は今年の１月１６日と １８日の演奏会を収録したものです。 この録音はＳＡＣＤではなくＣＤでの発売ですが，高音質盤のBlu-spec CD2 での発売です。また，ハイレゾのダウンロード販売も併せて行われており， フォーマットは９６kHz/２４bit PCMと，２.８MHz ＤＳＤの２種類があったの で，ＤＳＤのデータを入手しました。 これらを聴くに当たっては，まずは高音質のＤＳＤファイルの方が気になる ところなので，こちらから聴いてみると，音の良さは驚異的というか，信じら れないくらいで，コンサートホールの中央前列で聴いているようなバランスと， ヴィヴィッドで強烈なインパクトと存在感のある音質であり，これはもう，演 奏会場の客席で聴いているのと大差ないのではないかと思えるほどでした。 演奏についても，最近の小澤征爾はなかなか体調が上向かず，演奏機会は非 常に少なくなっているので，体力や気迫の面ではどうなんだろうかと不安に思 う気持ちもあったのですが，そのような心配は全く杞憂で，いったいどのよう な指揮のマジックがあるのかは分りませんが，オケの響きは輝かしく生命感に 満ちており，低音の重心は低く，フレージングはさりげなく積極性にあふれて いるなど，もうワクワクドキドキしつつも，心洗われ、感動に満たされるといっ た演奏なのでした。 これはベートーヴェンの交響曲の，それも第２番と第８番という，地味な曲 目のカップリングながら，演奏があまりに素晴らしいために，マイナーな印象 とか物足りなさといったものは全く感じませんし，それどころか，世にあまた ある両曲の録音の中にあっても，ベストワンと言い切ることになんら躊躇いを 感じないほどの感動と満足感を覚えました。 この録音を聴いての私の感動，感激については，これ以上言を重ねても同じ ことの繰り返しになりそうなので，この程度にしたいと思いますが，今現在， 日本の地で，ベートーヴェンの交響曲の空前絶後とも言うべき秀逸な演奏が行 われ，その演奏の姿がそっくり収まる高音質で録音され，居ながらにして再生 して聴くことができるということには，演奏者に対しても，録音技術，録音関 係者に対しても，感謝の気持ちでいっぱいです。私が生きている間に，これほ どのものが聴けることになるとは，ちょっと前までは想像すらできませんでし た。 ちなみに，ＤＳＤファイルの再生のプロトコルにはＡＳＩＯとＤｏＰの２種 類があるのですが，我が家の再生環境では，ＡＳＩＯはよりナチュラルな聴感， ＤｏＰはややＰＣＭライクな解像度の際立つ音で聴くことができました。私自 身はＡＳＩＯの方が好ましく感じましたが，ＤｏＰの音も劣らず高音質なので， これは好みもあるでしょうし，どちらであっても，演奏と音質の素晴らしさを 十二分に聴くことができると思います。 と，ここまではハイレゾのＤＳＤファイルを再生しての感想なので，今度は ＣＤの方を聴いてみると，音が薄くペラペラで，力感や低域の充実感もかなり 遜色があり，音の反応の良さは感じるのですが，オーケストラのヴィヴィッド な響きが再現されず，無機的な味気ない響きに聴こえますし，ＤＳＤのときの ような音を聴いただけで感激してしまうというようなことはありません。 演奏の印象についても，集中度の高いキレの良い演奏であることや，アンサ ンブルの緊密さといったものは感じ取れるのですが，演奏会場で鳴り響いてい たに違いない，ヴィヴィッドで心震わす響きの充実感や，インパクトや説得力 のある演奏表現，表出力といったものが明瞭に伝わらず，おしなべて淡泊に聴 こえるので，同じ演奏の録音を聴いているにもかかわらず，印象は大きく異なっ てしまうかもしれません。 それにしても，たまたま今回はＤＳＤファイルとＣＤとを聴き比べることが できたので，このようなＣＤ感想も書けるわけですが，大多数の録音はＣＤで しか聴けないわけで，常日頃ＣＤを聴いていて，どれだけ演奏の特徴や表現内 容を聴き取れているのだろうかと，不安な気持ちになってしまいました。 念のために申し添えると，これは「ＣＤだからだめ」ということではなく， 「ＣＤにしても音が悪すぎる」のではないかということで，ＣＤにするために は，ハイレゾの録音をＣＤのフォーマットである４４.１kHz/１６bit PCMにダ ウンコンバート，もっと分りやすく言うと情報の間引きを行うことになるので すが，そのダウンコンバートした音質が良くないのではないかということなの です。今回のＣＤよりももっと優れた音質で聴けるＣＤは沢山あります。 そんなわけで，これは最近の小澤征爾の指揮が聴ける貴重なライヴ録音であ るのみならず，小澤征爾と水戸室内管の一世一代とも言うべき，あるいは時代 や演奏様式を越えて聴く者の心を動かす真の名演名録音として強力に推薦した いと思います。 ただしそれはＤＳＤファイルを聴いたときの感想であり，ＣＤを聴いただけ だと，なぜ私が狼狽してしまうほどに感動・感激してしまったのかピンと来な いかもしれません。その意味ではぜひともＤＳＤファイルで聴いていただきた いとも思います。
2015.9.29
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