パーヴォ・ヤルヴィ指揮，フランクフルト放送響のマーラー１，２番のライヴ映像
◎マーラー 交響曲第１番 <2012.8.23> 交響曲第２番「復活」 <2010.6.26-27> パーヴォ・ヤルヴィ指揮，フランクフルト放送響， バイエルン放送合唱団，北ドイツ放送合唱団 カミラ・ティリング（ソプラノ）， リリ・パーシキヴィ（メゾ・ソプラノ）， 独C MAJOR 718104 (Blu-ray Disc) パーヴォ・ヤルヴィが，新たに，昨シーズンまで首席指揮者を務めていたフ ランクフルト放送響（ｈｒ響）とのマーラーの交響曲全集のライヴ映像のリリ ースを開始したようで，第１回リリースとなる第１番と第２番「復活」が発売 になりました。 演奏会場は，第１番がヴィースバーデンのフリードリヒ・フォン・ティール シュ・ホール，第２番がヴィースバーデン近郊のエルトフィレ・アム・ライン にあるエーベルバッハ修道院です。 さっそく視聴してみると，最初に収録されている交響曲第１番は，作品と指 揮者の明解でシャキッとした持ち味との相性が思いのほか良くて，明解で精力 的で弾けるような演奏を行っており，オーケストラの響きはフレッシュで若々 しさすら感じられ，さらには高い集中とのめり込みもあって思わず惹き込まれ ます。 これは，パーヴォ・ヤルヴィの率直で持って回ったところの無い音楽作りと， フランクフルト放送響のストレートでパワフルな演奏と，さらには作品の特徴 とが加わって素晴らしい相乗効果をもたらしており，この作品の希に見るほど に充実した，そしてツボにはまった演奏ではないかと思います。演奏終了後の 聴衆の反応も良好でした。 映像の画質も良く，演奏家上であるフリードリヒ・フォン・ティールシュ・ ホール内のユーゲントシュティール様式の雰囲気のある内装も素敵で，２４ビッ トＰＣＭの秀逸な音質と相まって，非常にリッチで贅沢な視聴のひとときを過 ごすことができたように思います。 続いて収録されている交響曲第２番「復活」においても，引き締まった撓る ような指揮の下で，集中度が高く，コントラストが明解で，積極果敢な演奏を 行っており，さらには，この作品独自の落差の大きい表現の世界を，堅固で揺 るぎない演奏スタイルにとともにスケール感豊かに描き出した，充実の演奏を 堪能することができました。 一方で，この作品の表現としては，単刀直入すぎるというか，充実した一気 呵成の演奏といった印象ではあるのですが，響きの味わいやバリエーションと いった点や，作品の世界観やイマジネーションといった面が希薄であり，作品 のスケルトン，あるいは骨と皮を聴かされているように感じてしまいましたの で，この辺りは評価が分かれるところかもしれませんが，私自身はそれゆえ物 足りなく感じてしまいました。 こちらの映像は教会（修道院）での演奏で，第１番より２年前の２０１０年 の収録ですが，残念ながら画質はかなり遜色があり，ブルーレイで見ているの ですがＤＶＤ並みの画質といった感じですし，オーケストラ全体を捉えたアン グルの映像などはさらに解像度が低下していて，２０１０年収録とは思えない 程度であったのが残念に思えました。なお，音の方は２４ビットＰＣＭで，教 会の長めの残響も上手く捉えられており，何ら不満のない音質で聴くことがで きました。 こうして２曲のライヴ映像を視聴してみると，第１番の方は，パーヴォ・ヤ ルヴィの指揮とフランクフルト放送響の持ち味が作品とマッチしていて，充実 した魅力的な演奏であると思えたのに対し，第２番の方は，同様のアプローチ の演奏ながら，より多様で広大な作品の世界をイマジネション豊かに縦横に描 き出すというところまではいかなかったように思います。 パーヴォ・ヤルヴィとマーラーの交響曲との相性に関しては，過去の演奏で いうと，デイヴィッド・ジンマンとマーラーの交響曲との相性に相通ずるもの を感じるところがあって，第１番は文句なしに素晴らしいのですが，第２番に なると，高いスコアの再現能力と，機能的で明解なオーケストラサウンド，積 極果敢な表現など，非常に充実した演奏である反面，複雑で相反する要素に満 ちた作品の世界を再現するには至っていないのではないかと思ってしまいまし た。 とはいえ，これは新しいチクルスの第１弾ということで，この先も同様のこ とになると限ったわけではありませんので，今後の演奏にも注目していきたい と思いますし，今回の２曲についても，私はちょっとひねくれた感想を書いて しまいましたが，パーヴォ・ヤルヴィの持ち味が遺憾なく発揮された充実の演 奏であることは間違いなく，おそらくは大多数の方が絶賛されるのではないか とも思いますので，あとは各々が視聴されて，判断されてはいかがかと思いま す。
2014.12.18
