ユリアンナ・アヴデーエワのシューベルト，プロコフィエフ，ショパン
◎シューベルト ３つのピアノ小品 Ｄ９４６ プロコフィエフ ピアノ・ソナタ第７番 ショパン ２４の前奏曲 ユリアンナ・アヴデーエワ（ピアノ） <2014.2.10-13> 仏MIRARE MIR 252 (2CD) ２０１０年のショパンコンクールの優勝者であるユリアンナ・アヴデーエワ は，レコーディングには慎重で，オファーは沢山あるに違いないメジャーレー ベルとの専属契約も無いようですが，単発的にマイナーレーベルから録音がリ リースされることがあり，今度は仏MIRAREから２枚組のＣＤがリリースされま した。 演奏されているのは，シューベルトの３つのピアノ小品，プロコフィエフの ピアノ・ソナタ第７番，そしてショパンの２４の前奏曲です。 収録順に聴いていくと，最初のシューベルトでは，響きのコントロールに配 慮しつつ，慎重に検討されたダイナミズムやフレージングによって，爽やかで 詩的な世界をスムーズに駆け抜けていくように描き出している，まさに心洗わ れる演奏です。 次のプロコフィエフでは，一気呵成に演奏するというのではなく，１つ１つ のフレーズの性格や味わいといったものを，しっかりと噛み締めながら弾き進 められているといった趣があり，作品の特徴の１つである斜に構えたシニカル な感じは希薄ですが，クッキリとしたタッチと明瞭な響きとともに，明朗で洗 練された作品の世界をつくり出しています。 最後のショパンでは，ピアノの響きにもしっとり感があって，シリアスさと か表現の重苦しさのような面も聴かれるようになり，技術的なピアニズム寄り の演奏というよりは，自身が作品から感じた内面のドラマを表出しているよう に感じられ，明解で説得力のある表現が，聴く側に違和感なくスムーズに伝わっ て来ているように思います。 アヴデーエワの演奏のアプローチは，シューベルトとプロコフィエフにおい ては，作品を詳細に検討して，細部まで磨き上げられた演奏を行っており，瞬 間の感興や，内面の共感を表出するというよりは，客観性の高い自身の作品の 解釈を，完成度の高い演奏によって聴かせてくれているように思われます。 それに対してショパンの方は，作品への共感や同化というものが根底にあり， １つ１つの曲について，自身の中で咀嚼し熟成した表現というものを率直に， あるいは詩情豊かに表出しており，じんわりと染み入る演奏となっていました。 アヴデーエワは作品それぞれに対して明解なビジョンを持ち，それを高い完 成度で実現しており，その演奏表現のレベルの高さ，意識の高さには敬服せず にはいられませんし，この姿勢を続けていくならば，必ずや真に偉大な演奏を 成し得るところにまで到達できるのではないかという期待もいや増すばかりで す。 録音については，MIRAREらしい，実在感のある美しい響きと，収まりの良い ほどほどのスケール感とによって，演奏の機微が伝わるとともに聴いていて快 適な音質を実現しており，ＣＤの音質としては最良のレベルにあると思います。 そんなわけで，これは現在のアヴデーエワの各作品に対する演奏のコンセプ トや，心技両面での卓越した演奏表現を聴くことのできる，大変に充実した１ 枚として強力に推薦したいと思います。
2014.11.9
