アリーナ・イブラギモヴァとスティーヴン・オズボーンのプロコフィエフのソナタ
◎プロコフィエフ ヴァイオリン・ソナタ第１番 ヴァイオリンとピアノのための５つのメロディ ヴァイオリン・ソナタ第２番 アリーナ・イブラギモヴァ（ヴァイオリン）， スティーヴン・オズボーン（ピアノ） <2013.7.11-13> 英HYPERION CDA 67514 英ハイペリオンから継続的に録音をリリースしているアリーナ・イブラギモ ヴァの新譜で，スティーヴン・オズボーンとのデュオによる，プロコフィエフ のヴァイオリン・ソナタと，ヴァイオリンとピアノのための５つのメロディを 収録した１枚が発売になりました。 さっそく聴いてみると，イブラギモヴァのヴァイオリン演奏は，奇を衒った ところのない，オーソドックスなものなのですが，ほどよく小気味よい音色や フレージングは，プロコフィエフの作品に実によくマッチしているという印象 があります。 ヴァイオリンの音色については，以前のイブラギモヴァの演奏ほどの痩せた 感じはではなく，ややドライな傾向にはあるものの，甘さ控えめのビターな音 色ともいうべき味わいが魅力的で，聴いていて思わず惹き付けられます。 演奏表現についても，作品に即したオーソドックスな表現を，過剰な演出を 排しつつも，高い集中と気迫を持って的確に描き出しており，同時にそこには， 作品に対する深い理解と共感があって，何気に弾かれているようなフレーズの １つ１つに素晴らしい味わいと，自然な説得力があって，作品の素晴らしさと 演奏の素晴らしさが混然となった，いつまでも聴いていたいと思わずにはいら れない魅力的な演奏として結実しています。 ピアノ演奏は，イブラギモヴァのいつもの相方であるセドリク・ティベルギ アンではなく，ハイペリオンでは先輩アーチストとなるスティーヴン・オズボ ーンが担当していますが，重心の低い，やや沈みがちな傾向の演奏が，イブラ ギモヴァのヴァイオリンのソノリティや作品のドライな感触と絶妙な対比をな しており，さらには演奏におけるフィーリングもマッチしているようで，これ は両者の素晴らしい邂逅となっているのではないかと思います。 録音については，演奏の特徴を明晰に捉えた，大変に秀逸なものであり，僅 かに色彩感の乗ったトーンキャラクターにはハイペリオンらしさを感じる，文 句なしの優秀録音と言いうるものであり，これは通常のＣＤながら聴いた満足 感の高い音質だと思います。 そんなわけで，これは作品の見事な再現であると同時に，イブラギモヴァと オズボーンのそれぞれの持ち味が発揮された，大変に充実した、聴き応えのあ る演奏が聴ける１枚として強力に推薦したいと思います。
2014.7.1
