ヴァント指揮，Ｎ響のシューベルトの３番とブラームスの１番のライヴ
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◎シューベルト 交響曲第３番 ブラームス 交響曲第１番 ヴァント指揮，Ｎ響 <1983.12.8> ALTUS ALT 261 (CD) ALTUS ALTSA 261 (SACD Single Layer) これは，キングインターナショナルとＡＬＴＵＳから発売されている，ギュ ンター・ヴァントとＮ響のライヴ録音のシリーズの１つで，ＳＡＣＤシングル レイヤ盤と通常のＣＤの２通りの盤で発売されました。 今回の盤に収録されているのは１９８３年１２月８日にＮＨＫホールで行わ れた演奏会のライヴ録音で，曲目はシューベルトの交響曲第３番とブラームス の交響曲第１番の２曲だけですが，これが当日のプログラムの全てのようです。 それでさっそく聴いてみると，最初のシューベルトの交響曲第３番は，オー ケストラの編成もやや大きめなのか，かなりスケール感のある演奏で，第１楽 章は，ゆっくり目のテンポで，ゆったりと流れるような曲の運びを聴かせてお り，１つ１つのパートが入念に演奏されているところなどは，いかにもヴァン トらしいこだわりが感じられます。 第２楽章も決して急がず，自然な流れから湧き出でる，穏やかな愉悦感とと もに弾き進められており，アンサンブルも緻密であり，味わいに満ちた充実の 演奏を楽しむことができました。 第３楽章は，シンフォニックな響きと，巧みなデュナーミクのコントロール によって，作品のサイズを超えるのではないかと思えるほどのスケール感のあ る堂々とした演奏をつくりあげており，充実した聴き応えがありました。 第４楽章は，タランテラのリズムに対して，アクセントを付けながら，力感 のある確かな歩みとともに弾き進められており，やや重い感じがしないでもあ りませんが，浮ついた感じの無い，謹厳で堂々とした演奏を行っており，その 厳しく統率された演奏を拝聴させてもらいました。 次のブラームスの交響曲第１番は，Ｎ響としても頻繁に演奏している作品だ と思うのですが，さすがにヴァントが指揮をすると雰囲気からして違うという ことなのか，第１楽章は速めのテンポで足早に開始されますが，その後は落ち 着いたテンポとなり，各々のパートやソロには緊張感とドラマトゥルギーが漲 り，重量感と切れ味がある峻厳な表現を聴かせていると同時に，精度の高いス コアの再現を実現しており，いつものＮ響よりも１ランクも２ランクも向上し たような演奏であることに驚嘆してしまいました。 第２楽章では，弦楽器の水を打ったような整然とした合奏には，聴いていて 身が引き締まる思いがしますし，管楽器の方も，シリアスな響きや音色と，ピ シッと定まるフレーズが見事で，不思議と暗さや沈んだ感じはなく，沈着冷静 でコントロールの効いた，独自の充実感のある演奏を聴かせていました。 第３楽章でも，第２楽章と同様の雰囲気を維持しつつも，スムーズで動的な 演奏となり，アンサンブルの動きや響きにも僅かに軽さが感じられて，全曲の 中で一休みというか，穏やかさと安堵感を感じさせる演奏表現を行っているこ とが印象的でした。 第４楽章では，再びシリアスな曲想になるものの，重苦しいところはなく， むしろアンサンブルの反応の良さと機動性を維持しながら，高い精度でスコア を再現するとともに，曲想に応じた自在で堂々とした演奏を繰り広げており， 響きには輝きと張りがあり，さらには自身と余裕すら感じられる，極めて充実 した演奏であることに驚嘆しつつ存分に堪能させてもらいました。 こうして聴いてみると，ヴァントが優れた手腕を有している指揮者であるこ とは改めて言うまでもありませんし，他にも名演に事欠かないところではある のですが，１９８３年当時のＮ響を指揮してこれほど高水準の演奏を実現して いたことには驚くほかありません。 録音については，ＳＡＣＤシングルレイヤ盤で聴いても，通常のＣＤで聴い ても音の情報量に大差はありません。ただし音の傾向としては正反対なところ があり，ＳＡＣＤの方は音の厚みや安定感がある反面，音のシャープさや反応 の良さは後退しており，これに対してＣＤの方はすっきり系ながら，シャープ で反応の良い音を聴くことができます。 この音質の傾向の違いから，ヴァントの細部までゆるがせにしない音楽づく りや，演奏の細やかな変化を明瞭に聴き取ることができるのはＣＤの方であり， 一方のＳＡＣＤの方は，ゆったりとした安定感のあるリッチな音質を聴くこと ができる反面，やや微温的あるいは大味な演奏に聴こえてしまう面があること も否めません。 このことについては，おそらく今回のリリースに際して使用されたマスター にはＣＤに収まる程度の情報量しかないということであり，その意味では、こ のライヴ録音はＣＤで発売すれば十分であり，ＳＡＣＤで発売する必要はない のではないかと思われます。 いろいろ述べてしまいましたが，これはヴァントとＮ響による，極めて充実 した高水準の演奏を聴くことができる１枚であり，掛け値無しに世界第一級の レベルにある名演として強力に推薦したいと思います。
2013.9.29
