ドゥダメル指揮の２０１０年ジルベスターコンサートのライヴＤＶＤ
◎ベルリオーズ 序曲「ローマの謝肉祭」 劇的物語「ファウストの劫罰」〜ロマンス「燃える恋の思いに」※ サン・サーンス 歌劇「サムソンとデリラ」〜バッカナール あなたの声に心は開く ※ ビゼー 歌劇「カルメン」〜第１幕への前奏曲 ハバネラ「恋は野の鳥」 ※ 間奏曲第２番 セギディーリャ「セビーリャの砦のそばのリリャス・ パスティアの酒場で」 ※ 間奏曲第３番 ジプシーの歌「鈴を鳴らして」 ※ ファリャ バレエ組曲「三角帽子」第２部 チャピ サルスエラ「セベデーオの娘たち」〜牢獄の歌 ※ ファリャ 歌劇「はかなき人生」〜スペイン舞曲第１番 ララ グラナダ ※ エリーナ・ガランチャ（メゾ・ソプラノ：※）， ドゥダメル指揮，ベルリンフィル 独GRAMMOPHON 00440 073 4631 (DVD) グスターボ・ドゥダメル指揮による，昨年大晦日のジルベスターコンサート のライヴＤＶＤが発売になりました。このコンサートに指揮者は当初，小澤征 爾が予定されていたのですが，周知のように健康上の理由でキャンセルせざる を得なくなり，ドゥダメルが代役を務めたものです。 プログラムはフランスとスペインの作品で，エリーナ・ガランチャのメゾ・ ソプラノが花を添えています。近年，飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をしているドゥ ダメルがベルリンフィルを指揮してどんな演奏を聴かせてくれているのか楽し みです。 さっそく視聴してみると，最初のローマの謝肉祭では，響きの華やかさや， リッチさのようなものはあまり聴かれないのですが，リズミカルでキレの良い 演奏を聴かせており，まずまず好調の滑り出しといったところです。 続いてメゾ・ソプラノのガランチャがステージに登場し，「ファウストの劫 罰」からのロマンスが歌われますが，ベルリンフィルの整然とした演奏をバッ クに，マイルドで伸びやかな歌声を披露しています。 次は「サムソンとデリラ」からのバッカナールとアリアで，バッカナールは アップテンポできびきびとした，快調な演奏がなかなか痛快で，アリアの方も スムーズで安定していて，ひたむきな思いが聴き手の胸に染み入るような，充 実した歌唱を聴くことができました。ガランチャの調子は上々のようです。 さらに「カルメン」からのナンバーが続きますが，カルメンはガランチャの 当たり役でもあります。演奏の方は，大変にエネルギッシュで，切れ味抜群で， くっきりしたメロディラインや，ノリノリのリズム感など，まさにこの作品を 聴く楽しみを満喫させてくれるものですし，ガランチャのメゾの，奔放で悪戯っ ぽい身振りや目配せを交えながらの余裕綽々の歌いぶりには，圧倒され，惹き 込まれてしまいました。 ファリャの「三角帽子」第２部は，隣人の踊りでの，絶妙なメリハリのリズ ムと旋律が全く見事ですし，粉屋の踊りでの隈取りのくっきりとした作品描写， 終幕の踊りでのダイナミックな疾走感と壮大な盛り上がりなど，これらのいず れもが整然としたアンサンブルから繰り出されていて，目覚ましいばかりの演 奏を堪能することができました。 これ以降はアンコールとなり，最初がチャピの牢獄の歌で，ガランチャが情 熱的な歌声を披露し，次のファリャのスペイン舞曲第１番は，エキゾチックで 色彩感があってドキドキするような演奏を聴かせ，最後のララのグラナダは， テノールの定番曲ですが，これを堂々としたエンターテイメントとして歌いきっ ており，会場も大盛り上がりでした。 こうして視聴してみると，事前に期待していたとおりというべきか，ドゥダ メルの指揮の下で，ベルリンフィルが血湧き肉躍る演奏を繰り広げており，メ ゾのガランチャも快調な歌声によってさらに盛り上がった，大満足のコンサー トとなっていました。 ベルリンフィルとしても，ドゥダメルが目指す演奏をどれだけ実現できるの か，チャレンジしているような雰囲気が感じられたのですが，自らの高い技量 を存分に発揮しつつ，そのチャレンジを楽しんでいるようにも思えました。 とはいえ，これが申し分のない１００点満点の演奏といえるかというと，そ こまでではなく，もう少し響きのリッチさや量感が欲しいと感じましたし，音 色感に乏しくモノトーンに感じられることが多かったので，このあたりは持ち 味という面もあるのでしょうか，さらに進化する余地があるように思いました。 いずれにしても，これは昨年のジルベスターコンサートの，大変に充実した 大盛り上がりの演奏を目と耳で存分に堪能することのできる，超魅力的な１枚 として強力に推薦したいと思います。
2011.2.26
