仲道郁代と，有田正広指揮のショパンのピアノ協奏曲
◎ショパン ピアノ協奏曲第１番 ピアノ協奏曲第２番 仲道郁代（ピアノ）， 有田正広指揮，クラシカル・プレイヤーズ東京 <2010.8.2-6> DENON-Aliare COCQ-49 (SACD Hybrid) ＤＥＮＯＮのアリアーレ・シリーズの新譜で，仲道郁代が有田正広指揮のク ラシカル・プレイヤーズ東京とショパンのピアノ協奏曲２曲を録音した１枚が 発売になりました。嬉しいことにＳＡＣＤハイブリッド盤での発売です。 この録音で仲道郁代が演奏しているピアノは１８４１年製のオリジナルのプ レイエルだということです。クラシカル・プレイヤーズ東京は２００９年４月 に結成された，ロマン派までをレパートリーとする，ピリオドインスツルメン ツのオーケストラです。 楽譜はそれぞれ最初に出版されたものを採用しており，第１番はキストナー 社から１８３３年６月に刊行されたものを，第２番はブライトコプフ・ウント・ ヘルテル社から１８３６年４月に刊行されたもので演奏しています。 さっそく聴いてみると，１８４１年製のオリジナルのプレイエルのピアノの 音色が大変に魅力的で，現代のピアノのような華麗な響きやスケール感といっ たものは望めませんが，それに変わって，複雑なニュアンスを湛えた，大変に 味わい深い響きや，軽くカラッとした音色の魅力に思わず聴き惚れてしまいま した。 このピアノと，仲道郁代自身のキャラクターとの相性も大変に良いように思 われ，ピアノの音色の特色を生かした，大変に叙情的で美しい演奏を聴かせて おり，とりわけ粒立ちの良いパッセージや，強弱の精妙なコントロール，晴朗 で絶妙なフレージングなどは実に見事で，この作品のこれほどまでに明朗で美 しいニュアンスに富んだ演奏を聴くのは初めてではないかと思えるくらいです。 また，このプレイエルのピアノは鍵盤を戻さないと次の打鍵ができない，シ ングル・エスケープメント（ＳＥ）のアクションで，ダブル・エスケープメン ト（ＤＥ）のピアノよりも素早いパッセージを演奏することが難しいのですが， ショパン自身も調子が良いときはＳＥのプレイエルを，あまり良くないときは ＤＥのエラールを弾いていたといわれており，演奏技術に問題がなければＳＥ のプレイエルの方が指のタッチがストレートに伝わるので好ましいと考えてい たようです。 さすがに仲道郁代は，このＳＥのプレイエルを問題なく弾きこなしており， 聴いていて何ら不安定さを感じませんし，反対に粒立ちの良いタッチや，デュ ナーミクのコントロールの巧みさといったメリットを生じさせているのではな いかという気がします。 有田正広指揮のクラシカル・プレイヤーズ東京も，ピリオドインスツルメン ツでの演奏ということで，各楽器の生成りの音色が魅力的ですし，やや小さめ の編成による，反応の良い演奏によって，これらの作品が作曲された当時の演 奏の姿を大変味わい深く再現しているのですが，そもそも今回のプレイエルの ようなピアノで協奏曲を演奏するとなると，やはりこういうオーケストラでな いとしっくりこないだろうなとも思いました。 その一方で，この演奏は，シリアスな表現やエモーショナルな感情の表出と いった面は希薄で，聴き方によっては綺麗事に終始している演奏のように思わ れるかもしれませんし，確かにそうではあるのですが，それなら他の演奏を聴 けばよいわけで，この演奏のユニークな魅力を何ら減じるものではないと思い ます。 また，この演奏で特徴的なのは，ピアノとオーケストラの掛け合いの部分で は，弦楽器がソロで演奏しており，これはプレイエルのピアノとの音量的への 配慮，あるいは室内楽曲的に演奏しようということなのかもしれませんが，ピ アノの音にかき消されてしまっていることがあり，これについてはもう少しはっ きり聴きたいと思いました。 録音は９６kHz／２４bitのＰＣＭ録音ですが，ＳＡＣＤレイヤの方は，楽器 の音色のニュアンスも十分に捉えられていますし，ピアノの音像はやや大きめ ですが，音場感も良く，まずは申し分のない音質で聴くことができると思いま す。 これに対してＣＤレイヤの方も非常に良好な音質のように聴こえるのですが， ピアノも含めたピリオドインスツルメンツの音色のニュアンスが欠落してしまっ ているため，モダン楽器の音に近付いて聴こえますし，やはりこういった演奏 の魅力を十分に味わうためにはＳＡＣＤで聴くべきだろうと思いました。 そんなわけで，これはピリオドインスツルメンツによる，大変味わい深い演 奏を聴くことができるとともに，仲道郁代の弾くエラールのピアノのエレガン トな美しさを存分に堪能できる，大変に魅力的な１枚として強力に推薦したい と思います。
2011.1.30
