松田理奈のイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
◎イザイ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ（全６曲） 松田理奈（ヴァイオリン） <2010.6.7-9, 9.6-8> 【ボーナスＤＶＤ】 ラヴェル ヴァイオリン・ソナタ（遺作） 松田理奈（ヴァイオリン），清水和音（ピアノ） <2010.1.22> イザイ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタのメイキング映像 松田理奈（ヴァイオリン） <2010.9.7> ビクターエンターテイメント VIZC-17（CD&DVD） 昨年あたりから本格的に演奏活動を開始してきている松田理奈の新譜で，イ ザイの無伴奏ソナタ全曲を収録した１枚が発売になりました。今年の６月と９ 月にフィリアホールで録音されたものです。 これは通常のＣＤの他に，限定盤として今年１月のリサイタルでのラヴェル の遺作のソナタと，今回のレコーディングのメイキング映像を収録したＤＶＤ 付きのバージョンも発売されましたのでこちらの方を入手しました。 さっそく聴いてみると，持ち前の美しいソノリティによる演奏を聴かせてお り，激しい曲調のときでも音がキツくなることはなく，技術的な不安も感じま せんし，作品を十二分に検討し手中にした上で演奏しているからか，演奏が無 味乾燥にならずに，表現内容が明確に伝わってきます。 演奏表現としては，作品と対峙するとか，突き放した厳しい表現をするとか いうものではなく，自分自身の中で共感したものを素直に表現しているといっ た感が強く，それが美しい音色によって彩られているために，聴いている側も 心がかき乱されることはなく，美しくもドラマチックな演奏を，存分に堪能す ることができました。 今回の録音を聴いてみても，前回聴いたラヴェルのライヴ録音のときと同様 に，大変美しく魅力的な演奏である一方で，表現の強さ，激しさいった点はそ れほど感じられないのですが，このことに関しては，演奏が魅力的なのでそれ でいいのではないかと思いながらも，いつまでもこういった演奏に留まってい ないで早くもう一皮むけて欲しいと思ってしまったことも否めません。 とはいえ，まだまだ先は長いのですから，聴く側としても，あまり性急な期 待をせずに，今の演奏を堪能すべきだろうと思いますし，考えてみると，今後 のさらなる進境とともに，現在の魅力の一端が失われることになるかもしれな いので，なおさらこの録音が貴重なものに思えます。 それと，これは録り直しのできるレコーディングセッションだというのに， うっかり他の弦を弾（はじ）いてしまうなどの楽譜にない（と思われる）音が ときおり聴かれるのがけっこう気になります。これは演奏している本人の責任 というよりは，レコーディングスタッフがもう少し注意してチェックすべきだっ たのではないかという気がしています。 録音については，通常のＣＤでありながら，松田理奈の美しい音色を聴くこ とができ，残響も過度にならず，演奏会場のフィリアホールの空間を巧みに再 現している，文句なしの優秀録音だと思いますし，ぜひともＳＡＣＤで聴きた かったとも思わずにはいられませんでした。 ボーナスＤＶＤには，ラヴェルのソナタのライヴと，今回のイザイの録音の メイキング映像が収録されていますが，ラヴェルの方は前回のライヴ録音ＣＤ に収録されているのと同じ演奏と思われます。 そんなわけで，これは松田理奈の美しい表現を秀逸な音質とともに，心ゆく まで堪能することができ，作品の新たな側面を聴くことのできる，魅力的かつ 興味深い１枚として，強力に推薦したいと思います。
2011.1.10
