安積京子のデビューＣＤ
◎リスト リゴレット・パラフレーズ グリーグ 抒情小曲集〜作品７１の２「夏の夕べ」 作品５４の３「小人の更新」 作品５４の４「夜想曲」 作品６５の６「トロルドハウゲンの婚礼の日」 ショパン 即興曲第４番「幻想即興曲」 夜想曲第２番 作品９の２ スケルツォ第３番 リスト 愛の夢第３番 シューベルト 即興曲 作品９０の２ Ｄ８９９の２ ブラームス ２つのラプソディ 作品７９〜第１曲 ロ短調 安積京子（ピアノ） <2010.3.22,24&25> 独ORPLID 13 これは仙台市出身のピアニスト，安積（あさか）京子のデビューＣＤです。 安積京子は大阪音楽大学・同大学院，ドイツ国立ワイマール・フランツ・リ スト音楽大学，ミュンヘン音楽大学大学院で学び，第７回国際ウィーンピアニ ストコンクールで第２位となり，現在はミュンヘンに在住し，ドイツと日本を 往復しながら演奏活動を行っています。 ＣＤのレーベルはドイツの ORPLID で，これは名バリトン歌手だったヘルマ ン・プライの息子のフロリアン・プライの自主レーベルです。これまでフロリ アン自身や父ヘルマンの録音などをリリースしていましたが，安積京子の演奏 に注目したということなのでしょうか。 さっそく聴いてみると，ふくよかでゆったりしとしたピアノの響きが大変に 魅力的で，親密な共感を感じさせる，細やかなで行き届いた演奏を聴かせてい るのですが，神経質さのようなものとは無縁であり，聴いていると，豊かな表 現内容に安らかに心満たされていく思いがして，何ともいえない幸福感を感じ てしまいました。 この安積京子の演奏は非常にオーソドックスであるともいえるのですが，改 めて思いを巡らせてみても，こういった演奏を聴かせてくれるピアニストが他 にいるかというと，すぐには思い浮かびません。 もちろん，この演奏で１００パーセント申し分ないかというと，決してそう ではなく，響きの豊かさは十分であるとしても，やや緩みがちなところがあり ますし，リゴレット・パラフレーズではパッセージのキレがいまひとつに思え ましたし，音色も魅力的とはいえ，もう少しバリエーションが欲しいとも思い ました。 しかしながら，これらのことは今後の精進に期待したいですし，何よりも今 現在においてこれほど個性的かつ魅力的な演奏ができていることは，端倪すべ からざることだと思いますし，すでにドイツと日本の両国において数多くの演 奏会が企画され，好評を博していることもむべなるかなと思います。 私はこのＣＤで初めて安積京子の演奏を聴いたのですが，ＣＤで聴くピアノ の音は密度が薄くて，実際のピアノ演奏の音の質感が伝わりにくいのですが， そのＣＤで聴いてさえ，これだけ充実感のある響きを堪能できるというのは， 実際の演奏がそれだけ充実しているということに加え，録音が秀逸であること の証左だろうと思います。 そんなわけで，これは聴けそうでなかなか聴けなかった，ふくよかな響きの 心安らぐ演奏を聴くことのできる，希少な１枚として強力に推薦したいと思い ますし，私自身もこのＣＤを聴くことができて幸せでしたし，今後とも安積京 子の演奏には注目していきたいと思います。
2010.10.17
