メジューエワのショパンの前奏曲集
WAKA-4140 参考ＣＤ
◎ショパン ２４の前奏曲 前奏曲 変イ長調 遺作 メジューエワ（ピアノ） <2009.10.14-15> 若林工房 WAKA-4140 ※参考ＣＤ PURGATORIO PRGT-7001（メジューエワの１９９９年の同曲録音） ロシア出身で現在は日本を本拠地として演奏活動を行っているイリーナ・メ ジューエワ（Irina Mejoueva）は現在，若林工房から精力的に録音をリリース しているところで，今度はショパンの前奏曲集が発売になりました。 さっそく聴いてみると，曲趣に応じた多彩な表現による演奏を聴くことがで きるのですが，その多彩な演奏表現の一方で，メジューエワ自身の表現の基軸 はいささかも揺らぐことがなく，全曲の演奏が一本の強い意志によって貫かれ ていることに，強い印象を抱きました。 ここで聴かれる，磨き上げられた美しい響きや，厳しいまでの毅然とした表 情，ドラマチックでインパクトのある表現，さらには心の奥底にまでとどく叙 情性や詩情といったもののいずれもが，洗練された高い完成度とともに実現さ れており，思い入れの深さとストイックさが両立した，類い希なる演奏の世界 をつくりだしています。 ショパンのこの作品の演奏には様々なアプローチがあろうかと思いますが， ここでのメジューエワの演奏には，ロシアの大地を思わせる地平の広さと揺る ぎなさと，やや暗い情念を秘めたシリアスな表現の世界と，シンプルな洗練味 といったものを感じますし，これらのことは従来のメジューエワの演奏と何ら 変わるところはないはずなのですが，作品との相性によって，露わな形となっ て表れ出でたのかもしれません。 メジューエワは，今回の録音のちょうど１０年前の１９９９年にもこの作品 を録音しているので（正確には，こちらには作品４５も収録されています。）， 試しに聴いてみると，キッチリとした響きやタッチには同様のものを感じます が，ちょっと軽めですし，テンポは総じて遅めで，念入りに表現しようとして いる姿勢が伺えるのですが，浅めの感は否めず，これはこれで，真摯でフレッ シュな名演と言いうるものだとは思いますが，この１０年間のメジューエワの 進境に改めて驚かされます。 録音については，このレーベルらしい深みのある響きとともに，演奏の姿を 明瞭に捉えた秀逸なものですが，ＣＤの情報量の限界なのか，時に響きを分解 しきれないもどかしさを感じることもありました，毎度述べていることですが， これだけの優秀録音であれば，ぜひＳＡＣＤで聴いてみたいものです。 そんなわけで，これは多彩な表現の世界を持ったこの作品を，高い技量と意 志の力とユニークなパーソナリティによって描き出した，傾聴すべき高みにあ る名演として強力に推薦したいと思いますし，１０年前の録音も別の魅力を有 した１枚として推薦したいと思います。
2010.5.29
