ルイサダのショパンのマズルカ集の新録音
◎ショパン マズルカ第１〜４１番 ルイサダ（ピアノ） <2008.10.20〜23> RCA BVCC-10001〜2 (2SACD Hybrid) 現在はＲＣＡレーベルに録音を行っているジャン＝マルク・ルイサダの新譜 で，軽井沢大賀ホールで録音された，ショパンのマズルカ集の録音が発売にな りました。ＳＡＣＤハイブリッド盤での国内先行発売です。 収録されているのは，マズルカのうちショパンの生前に出版された作品６３ までで，通し番号だと第１〜４１番になります。ルイサダは１９９０年にもド イツ・グラモフォンにマズルカ集を録音していたのですが，その際はこれに加 えて作品６７と６８を加えた４９曲を録音していました。 さっそく聴いてみると，軽快で変化に富んだ演奏を聴かせているとともに， タッチや響きの深さにも不足はなく，作品を十二分に検討し，考え抜かれ，試 行錯誤を重ねた演奏であることは直ちに理解されるのですが，最後の微妙なさ じ加減のような，瞬間的なインスピレーションが加味されているといった趣が あり，それが演奏をフレッシュなものにしているように思われます。 表現の傾向としては，以前のルイサダの演奏で聴かれた，リズムやフレーズ の独自の味わいは影を潜め，より円熟したオーソドックスな表現に到達してい る感があり，深みのある味わいの響きをベースに，堂々とした存在感と，細や かな表現が相備わった，まさに王道を行くような完成度の高い見事な演奏であ り，実際に聴いて得られる手応えや感懐も並大抵ではありません。 この録音の見事さには，秀逸な音質も大いに貢献しており，ヤマハのピアノ の艶を抑えた渋めの響きや，カツンとした響きのエッジなどが見事に再現され ており，ＤＳＤ録音＆ＳＡＣＤというのは，ピアノの響きの実体をこれほどま でに克明に記録し再現できるということに改めて驚かされました。 なお，ＣＤレイヤでの再生音は，響きが軽薄で，高域に艶が乗って聴こえ， ＳＡＣＤレイヤで聴いたときの響きの質感や，落ち着いた空間の雰囲気は想像 し難いかもしれません。それにしても，これだけ音が違うとなると，一般論と して，そもそもＣＤを聴いて演奏の姿をどれだけ正確に理解できるものなのだ ろうかと，心許ない思いに駆られます。 そんなわけで，これはさらなる進境を遂げたルイサダによる，当代最高のマ ズルカの演奏が聴けると言っても過言ではない，充実の名演・名録音として強 力に推薦したいと思います。
2010.5.2
