ピエルロ指揮，リチェルカーレ・コンソートのバッハのマニフィカトほか
◎バッハ マニフィカト ＢＷＶ２４３ フーガ「わが魂は主をたたえ（マニフィカト）」 ＢＷＶ７３３ 小ミサ曲 ト短調 ＢＷＶ２３５ 前奏曲とフーガ ト長調 ＢＷＶ５４１ マリア・ケオハーネ（ソプラノ），アンナ・ザンダー（ソプラノ）， カルロス・メーナ（アルト），ハンス＝イェルク・マンメル（テノール）， シュテファン・マクレード（バス），フランシス・ジャコブ（オルガン）， フィリップ・ピエルロ指揮，リチェルカーレ・コンソート <2009.4> 仏MIRARE MIR 102 (CD & DVD) 仏MIRAREから，フィリップ・ピエルロ指揮のリチェルカーレ・コンソートに よるバッハのマニフィカトが発売になりました。ＣＤのほかにマニフィカトの 録音風景や実演の様子を収録したＤＶＤが付されています。 このＣＤには，ＢＷＶ２４３のマニフィカトのほかに，マニフィカトの主題 によるＢＷＶ７３３のオルガン曲のフーガ，ＢＷＶ２３５のト短調の小ミサ曲， ＢＷＶ５４１のオルガン曲の前奏曲とフーガが収録されています。 録音が行われたのは，マニフィカトと小ミサ曲がベルギーのリエージュ州の Beaufaysの聖ヨハネ福音教会，オルガン曲がストラスブールのBouclier改革派 教会です。 さっそく聴いてみると，最初のマニフィカトの伴奏が始まった途端，その明 朗で抜けきった響きの美しさに驚かされます。続いて合唱が入るのですが，い わゆるＯＶＰＰ（One Voice Per Part：合唱曲の各パートを１人で歌うこと） なので，合唱の厚みは望めませんが，力感に不足はありませんし，作品の姿を くっきりと描き出し得ていると思います。 合唱を兼ねる独唱陣は，いずれも落ち着いた味わいのある声色で，雄弁かつ 明朗に歌い上げており，その完成度の高さと美しさには，惚れ惚れと聴き入る ばかりで，各曲が短いのが恨めしく感じられるくらいでした。 続いて収録されているフーガはドイツ語のマニフィカトのオルガン編曲とい うことで演奏されているようですが，この作品の謹厳な曲調が，次のミサ曲に 移るための上手い繋ぎになっているようにも思われます。フランシス・ジャコ ブのオルガン演奏は，やや速めのインテンポのオーソドックスなものです。 次の小ミサ曲は，キリエとグローリアのみの作品で６曲からなり，すべて教 会カンタータからの転用による充実した作品です。リチェルカーレ・コンソー トの演奏は，緊密な演奏で作品のシリアスな世界に迫りつつも，持ち味である 明朗なソノリティによって，愉悦感のある美しい世界を描き出しており，この 作品のユニークで魅力的な演奏ではないかと思います。 最後に収録されているＢＷＶ５４１の前奏曲とフーガは，分散和音による快 活な前奏曲と，ヴィヴァルディの「調和の霊感」第１１番からの転用といわれ ている主題による華やかなフーガとからなり，特にフーガでの生き生きとした 愉悦感を感じる演奏が魅力的でした。 こうして聴いてみると，歌詞がラテン語であるマニフィカトやミサ曲と，明 朗で知的なエスプリを感じさせる，ピエルロ指揮のリチェルカーレ・コンソー トの演奏との相性が非常に良く，特にマニフィカトでの主を讃える喜びにあふ れた明晰な演奏は，数多いこの作品の録音の中にあって，最高の表現が聴ける と言っても過言ではないと思いました。 このレーベルは，明晰で非常に趣味性の良い，魅力的な音質を聴かせてくれ ることが多いのですが，今回も美しいリアリティとでも言うべき，クリヤーで 耳に心地良い音質を堪能することができましたし，秀逸な演奏の魅力が音質の 良さによっていや増しているのは嬉しい限りです。 そんなわけでこれは，収録されている作品の秀逸な演奏を堪能できるだけで なく，ピリオドインスツルメンツとＯＶＰＰによる，美しく実り豊かな演奏と して画期的なものではないかと思いますし，特にマニフィカトの最高の名演が 聴ける１枚として強力に推薦したいと思います。
2010.4.30
