ユンディ・リのショパンの夜想曲
◎ショパン 夜想曲第１〜２１番 <2009.11 & 2010.1> ユンディ・リ（ピアノ） 英EMI 6 08391 2 (2CD) ２０００年のショパン・コンクールで優勝したユンディ・リは，翌年ドイツ・ グラモフォンと専属契約を締結して録音をリリースしてきたところですが，こ のほどＥＭＩに移籍し，第１弾として，ショパンの夜想曲全集の２枚組ＣＤが 発売になりました。 ユンディ・リはショパン・コンクールの優勝者であり，今年は生誕２００周 年のショパン・イヤーであることを考えれば，これは非常に正攻法なリリース ということになるのでしょうか。 この録音は国内盤では通常のＣＤとＨＱＣＤの２種類で発売されましたが， 輸入盤は通常のＣＤのみの発売です。個人的にはＨＱＣＤの音質は通常のＣＤ に劣ると思っているので，輸入盤の方を入手しました。２枚組ながらフルプラ イスＣＤ１枚分の価格でした。 さっそく聴いてみると，持ち前の優れたテクニックの表れというべきか，鮮 明で引き締まっていると同時に，繊細でリリカルな演奏をつくり出しており， 技術と表現の両面での完成度の高さに圧倒される思いがします。 正直なところ，いかにショパン・コンクールでの優勝者とはいえ，ユンディ・ リがこれほどまでに完成度の高いキッチリした演奏を聴かせてくれるとは予想 していなかったので，聴いてみて嬉しい驚きを感じているのですがその一方で， この演奏に対しては大いなる物足りなさを感じてしまったのも，また事実なの です。 いったい何が物足りないのかというと，精確な技術と，フレッシュで瑞々し い演奏表現が聴けるのはよいとしても，それは小さくまとまっているに過ぎな いというか，あるいは深い感情の世界を表現するといった境地には全く及んで いないというか，一人の演奏家としての人間的な表現力や説得力といった面が 希薄なように感じられます。 これは現在のユンディ・リの演奏姿勢に問題があるというよりも，周囲の期 待に応えて拙速に結果を出そうとしたのではないかと思われますし，このＣＤ の制作者が，このような表層的で小綺麗にまとまった演奏の録音で聴く者を満 足させられると考えているのだとしたら，全く腹立たしい限りであり，決して ユンディ・リのためにもならないのではないかと思えてなりません。 音質については，冒頭に述べたように国内盤のＨＱＣＤの音質を避けて輸入 盤ＣＤで聴いているのですが，１６ビットＰＣＭの音の情報量の限界があると はいえ，ピアノの音の質感が克明に捉えられていますし，それが静寂感のある 精度の高い音質で再現されていることから，ＣＤプレスの品質も良好なのでは ないかと思われます。 そんなわけで，これはユンディ・リの技量の確かさと，ショパンの演奏の秀 逸さを十二分に堪能することができ，その意味では魅力的な１枚といえるので すが，反面，小綺麗で小さくまとまっているように感じられる面もありますの で，あとはご自身の耳で聴いて判断されてはいかがかと思います。
2010.4.27
