ネルソン・フレイレのショパンの夜想曲
◎ショパン 夜想曲第１〜２０番 <2009.12.14-21> ネルソン・フレイレ（ピアノ） 英DECCA 478 2182 (2CD) ネルソン・フレイレは近年，英DECCAにショパンの作品を録音してきている ところですが，新譜として夜想曲全曲録音が発売になりました。 さっそく聴いてみると，飾り気のない率直な演奏を行っているのが印象的で， きらびやかさを抑えた，訥々とした音色と，ロマンティックな思いを内に秘め ながらも，その思いを，愚直で不器用に思えるくらいの，骨太でシンプルな演 奏によって表現しています。 いうまでもなく，フレイレは優れた技量を有したピアニストであり，その気 になれば演奏効果があって聴き映えのする演奏をすることも可能なのだろうと 思うのですが，ここではあえて，今どきはやらない演奏と受け取られかねない ことを承知の上で，あるいはそんなことは考えもせずに，自身の確固たる表現 の世界を敢然と描き出しており，その無二ともいえる演奏には強く惹き付けら れます。 ショパンの夜想曲の演奏というと，作品のイメージに沿ったムーディな表現 の世界を思い浮かべがちではないかと思うのですが，ここでのフレイレの演奏 は，もっと実直に作品に対するエモーショナルな思いを演奏に託しているよう に感じられます。 こういった傾向の演奏だと，ショパンの早い時期の作品はともかくとして， 作品５５（第１５，１６番）や，作品６２（第１７，１８番）のような成熟し た作品をどう表現するのかという点も気になったのですが，実際に聴いてみる と，後年の作品に進むにつれて，余分な力が抜けていって，よりピュアな演奏 を聴かせるようになっており，これは実は十二分に考え抜かれた演奏であるこ とが実感させられました。 録音については，可もなく不可もなくといった印象で，ＣＤとして聴くなら ば，それなりの明瞭度と響きの片鱗を聴くことができるので，大きな問題はな いと言えるのですが，この録音をＳＡＣＤで聴いたなら，より実在感と厚みの ある再生音に，なおいっそう心打たれることになったのではないかと思われて なりません。 そんなわけで，これはフレイレというピアニストのパーソナリティや持ち味 が率直に反映された演奏を聴くことができる１枚であり，技術的な面での不安 もなく，何よりもぶきっちょな男のロマンティズムを味わうことのできる得難 い１枚として強く推薦したいと思います。
2010.4.26
