メジューエワのショパンの練習曲集
◎ショパン １２の練習曲 作品１０ <2009.7.8&9> １２の練習曲 作品２５ <2009.9.2&3> メジューエワ（ピアノ） 若林工房 WAKA-4139 ロシア出身で現在は日本を本拠地として演奏活動を行っているイリーナ・メ ジューエワは現在，若林工房から精力的に録音をリリースしているところです が，新譜としてショパンの練習曲集が発売になりました。 メジューエワはこれまで，このレーベルにショパンの録音を行ってきている ところで，バラードほかを収録したＣＤは感想も書き込んでいるところですが， その率直で情感あふれる演奏に心洗われる思いがしたものでした。今回は練習 曲集という多分にテクニカルな側面を有した作品をどのような表現で聴かせて くれるのか非常に楽しみです。 それでさっそく聴いてみると，打鍵の強さはやや抑え目ながら，素早いパッ セージも余裕を持って明瞭に弾きこなせており，技術的にも安心して聴けるも のです。 そしてこの演奏で特に印象的なのは，１つ１つの曲に対するメジューエワ自 身の思い入れや表現の世界があって，それが美しい詩情をともなって描き出さ れていることで，優しい眼差しや，その背後にある毅然とした思い，心暖まる 共感，楽興に戯れるひととき・・・といった表現を通じて聴き手に語りかける ような演奏であり，録音を聴いているということを忘れて，演奏と対話してい るような思いに駆られましたし，大変に幸せな聴取のひとときを過ごすことが できました。 それから，このＣＤで聴ける演奏の音質は，元の演奏がそうなのか，あるい は録音のせいなのか判然としないのですが，打鍵の強さが抑え目なだけでなく， ピアノの響きもややソフトフォーカスというか，薄くヴェールがかかったよう な音質になっており，これはこれで大変に魅力的な音質ではあるのですが，聴 いていて不思議な気持であったことは否めません。この辺りのことについては ＣＤではなくＳＡＣＤで聴けたなら実情がはっきり分ったかもしれません。 そのため，この録音の音質はハイフィデリティといった観点からは，やや物 足りなく感じられてしまうかもしれませんが，演奏のコンセプトに即した，大 変に魅力的な音を聴くことができるので，その意味では文句なしの優秀録音と いうべきだろうと思います。 そんなわけで，これはショパンの練習曲というテクニカルな作品を，メジュ ーエワが練達の技術で無理なく演奏し得ているだけでなく，それこそコルトー 以来ではないかと思えるほどの，人間的な共感と包容力をもって詩情豊かに描 き出した，大変に魅力的で傾聴すべき演奏ではないかと思いますし，時代を超 えて聴き継がれるに足る名演として強力に推薦したいと思います。
2010.2.22
