セムコフ指揮，ポーランド青年響のシューベルトの交響曲第５番と第９番
◎シューベルト 交響曲第５番 交響曲第９番 セムコフ指揮，ポーランド青年響 <2008.12.17-20> 波CD ACCORD ACD 146-2 ポーランドのベテラン指揮者イェジー・セムコフがワルシャワ青年響を指揮 しての新譜が発売になりました。 ポーランド青年交響楽団（Polska Orkiestra Sinfonia Iuventus）は，ワル シャワ音楽院の卒業生をメンバーとする，アンダー３０のオーケストラで，政 府の肝いりで２００７年９月に組織され，セムコフが指導に当たっており，翌 ２００８年６月から演奏活動を開始しています。 このオーケストラの録音はこれが３点目になるようですが，今回はシューベ ルトの交響曲という定盤的な曲目であり，セムコフの指揮の下でどのような演 奏を聴かせてくれるのか興味が持たれるところです。 それでさっそく聴いてみると，最初の交響曲第５番は，すっきり爽やかで， 軽快に流れる，大変に若々しくフレッシュな演奏であり，とにかく演奏するの が楽しくてしかたがないといった，覇気と愉悦感に満ち溢れ，すっきり晴れ渡っ た空を白雲がゆっくりと動いていくのを眺めているような，ピュアで透明感の ある表現の世界にすっかり魅了され，聴き終えたときには爽やかな感懐が残り ました。 次の交響曲第９番の演奏はさらに素晴らしく，響きには柔らかな味わいを増 し，落ち着いたテンポで運ばれる，ゆったりとしたスケール感のある世界を描 き出しており，これはまさにセムコフならではの演奏の世界といえるのですが， 加えて，いささかの曇りもない，澄みきった響きと美しく奏でられる旋律線に は心洗われる思いがしましたし，聴いていて大変に幸せな思いになれる演奏で した。 こうして聴いてみると，いずれの作品においてもポーランド青年響の，演奏 技術の確かさと，演奏に対する真摯で積極的な姿勢に好感が持てましたし，さ らにはセムコフの薫陶によって，若きオーケストラの演奏とは思えないほどの， 成熟した完成度の高い表現をつくり出しており，まさに双方の資質と意欲が出 会うことによってシナジー効果を発揮した，希に見る充実した演奏が実現され たのではないかと思えてなりません。 音質については，アナログ録音時代からのポーランドのレーベルの録音に通 じる，クールでリアリティのある音質で収録されており，録音としても大変に 秀逸ですし，何よりも演奏と演奏の傾向とが見事にマッチしている，幸せな録 音となっているのではないかと思います。 そんなわけで，これはポーランド青年響の若き感性と演奏意欲と，ポーラン ドの重鎮指揮者のセムコフの練達の指揮とによって，瑞々しい感性と，積極的 な演奏意欲と，完成度の高い演奏とが実現された，希に見る充実の名演であり， ぜひとも一聴をお薦めしたいと思います。
2010.1.17
