ニコラーエワのベートーヴェンとシューベルトのＢＢＣ録音
◎ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第１５番「田園」 <1993.1.18> シューベルト ピアノ・ソナタ第２１番 <1991.12.9> 即興曲 作品９０の３，Ｄ８９９の３ <1991.12.9> ニコラーエワ（ピアノ） 英BBC LEGENDS BBCL 4268-2 貴重なライヴ録音や放送録音をリリースし続けている英ＢＢＣレジェンドの 新譜で，ニコラーエワの放送録音が発売になりました。ベートーヴェンは聴衆 のいるロンドンのＢＢＣスタジオで，シューベルトは聴衆のいないグラスゴー のＢＢＣスタジオでの録音です。 さっそく聴いてみると，最初のベートーヴェンのソナタでは，やや無造作な 印象ではあるものの，整えられた演奏を行おうとするのではなく，作品に虚心 に向き合って弾いているような印象であり，明快で力感にも不足はなく，ニコ ラーエワの率直で飾らないキャラクターとともに，作品の素の姿の魅力，素晴 らしさを再認識させてくれるような，心洗われる演奏でした。 次のシューベルトのソナタになると，第１，２楽章では，作品と対話しなが ら，淡々と弾き進められてるのですが，その歌い口には親密さと暖かみがあっ て，紡ぎ出される響きの中には，真正な思い入れがさりげなく込められており， 聴いているうちに，じわじわと心が満たされてくるような，ヒューマンなぬく もりが感じられました。 それが第３楽章になると，スケルツォらしいというか，戯れっ気のようなも のが感じられるようになり，キレの良いタッチによって，輪郭鮮明で小気味の 良い演奏を聴かせており，第４楽章は明快で積極性の伝わる演奏で，アクセン トを多用したフレージングが特徴的で，デュナーミクの幅も大きく，力強く堂 々とした演奏で全曲を締め括っていました。 アンコールのように演奏されているシューベルトの即興曲は，入念な解釈と いうのとは正反対の，オープンな心で率直な思いを吐露したかのような演奏で あり，その思いか演奏から伝わってきますし，聴いた後には爽やかな感懐が残 りました。 こうして聴いてみると，いずれの曲目においても，ニコラーエワの飾り気の ないフレッシュな演奏を聴くことができ，特にやや荒削りで，すれた感じのし ない響きには，他のピアニストからはなかなか聴くことのできない，独自の魅 力と味わいがあるように思いましたし，これらの聴き慣れた作品から，心洗わ れる表現をつくり出していることには新鮮な感動を憶えました。 録音については，響きのタッチや輪郭が明快で，この演奏の魅力を十分に聴 き取ることのできるものだと思いますが，多少痩せ気味で無機的に感じられる ところもあり，演奏のニュアンスの妙を聴き得たかというと心許なく，録音時 期を考えればもう少し何とかならなかったのかなという気もします。 そんなわけで，これはニコラーエワの飾らない人柄の魅力も感じられる，ユ ニークで充実した演奏が聴けるとともに，洗練された演奏芸術の世界が忘れて しまったものを思い出させてくれる１枚として，ぜひとも一聴をお薦めしたい と思います。
2009.12.12
