ペライアと，ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管のライヴＤＶＤ
◎シューマン ピアノ協奏曲 ブルックナー 交響曲第９番 ハイティンク指揮，ロイヤル・コンセルトヘボウ管， ペライア（ピアノ：協奏曲） <2009.3.4,5&8> NHK CLASSICAL NSDS-13871 (DVD) NHK CLASSICAL NSBS-13872 (Blu-ray Disc) 貴重なライヴ映像をリリースしているＮＨＫクラシカルから，ペライアと， ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管が本拠地のコンセルトヘボウで行った演 奏会のライヴ映像が発売になりました。 これは今年の３月８日に行われた定期演奏会のもので，日本にもハイビジョ ンで生中継されていたものですが，音の方は３月４日と５日の録音も使用され ているということです。また，この定期演奏会初日の３月４日はハイティンク の８０歳の誕生日でもあったという記念すべき演奏会でした。 これはＤＶＤのほかブルーレイディスクでも発売されましたが，私はブル ーレイの再生機を持っていないのでＤＶＤで入手しました。 さっそく視聴してみると，最初のシューマンのピアノ協奏曲でのペライアの ピアノ・ソロの黒光りするような美しく格調高い音色が素晴らしく，いつまで も聴いていたいと思ってしまったほど魅力的な音なのにまずは驚かされます。 演奏についても，作品への理解と共感に裏付けられた完成度の高さがあり， 周到かつ細やかな表現の妙と相まって，聴き手の胸を打つインテンシティと， 深々としたロマンティックな味わい，さらには細やかで夢見るような叙情性に 至るまで間然とするところがなく，その押し寄せてくる美しく感動的な表現を 半ば呆然としながら聴き入るばかりでした。 ハイティンク指揮のオケも非常に明晰ながら，ペライアのピアノに対して半 歩下がったような，やや抑え目の演奏にとどめているのが非常に効果的で，聴 き方によっては綺麗で上品すぎると感じられるかもしれませんが，この作品独 自のロマンティズムを格調高く雄弁に描き出した，素晴らしい名演ではないか と思います。 次のブルックナーの交響曲第９番も，クリヤーで見通しの良い響き，緻密な アンサンブル，極めてオーソドックスな演奏解釈といった，ハイティンクとコ ンセルトヘボウ管のいつもの演奏の流儀が聴けるのですが，この演奏において は，それらがさらにレベルアップしていて，自然で違和感のないドラマトゥル ギーや，スムーズな流れとともに，澄みきった眺望の山並みを仰ぎ見るような， それがあるがままであることが限りなく感動的であるといった演奏をつくり出 しています。 これはまさにハイティンクの円熟の賜物だと思いますし，半世紀以上に亘っ て共に演奏してきたコンセルトヘボウ管だけが実現できる，深く根源的なとこ ろからの共感に根ざした唯一無二の完成度を有した演奏の世界ではないかと思 われてなりませんし，これを聴いているとハイティンクは，ヴァントや朝比奈 隆のように１日でも長く指揮をし続けることによって，前人未踏の独自の境地 に至ることのできる指揮者なのかもしれないとも思いました。 これほどの演奏だと，さすがに当日の聴衆にとっても感動的なものであった ようで，両曲の演奏とも終了と共に総立ちのスタンディングオベーションとなっ ていました。 また，このＤＶＤの録音は非常に優れたもので，ペライアのピアノの音色や オーケストラの響きを明晰に捉えていますし，何よりもクリヤーで美しいホー ルトーンがが見事に再現されており，これを聴いていると，いつかコンセルト ヘボウでコンセルトヘボウ管の演奏を聴きたいという渇望が湧き起こってきて なりませんでした。 映像についても，ＤＶＤでの再生とはいえ，ホール内の落ち着いたコントラ ストの色彩が美しく再現されており，聴こえてくる音と見事にマッチしている ので，ますます惹き込まれて見入ってしまいまいした。 そんなわけで，これは演奏，音質，映像の三拍子揃った，希に見るほど充実 した映像であり，ここまで素晴らしく感動的な演奏が現役の指揮者とオーケス トラから聴けるとは正直なところ思っていなかったので，これは嬉しい誤算と なったと同時に，改めて未来への希望を感じましたし，とにかくこれは超弩級 の名演として強力に推薦したいと思います。
2009.12.5
