ヤンソンス指揮，バイエルン放送響のマーラーの交響曲第７番
◎マーラー 交響曲第７番 <2007.5.8-9> ヤンソンス指揮，バイエルン放送響 BR KLASSIK 403571900101 (SACD Hybrid) ドイツのバイエルン放送では，放送局の誕生６０周年を記念して，新たに自 主制作のレーベル BR KLASSIK を新たに立ち上げたところで，これはその第１ 回新譜として発売されたものの１つです。ＳＡＣＤハイブリッド盤の発売です。 さっそく聴いてみると，ヤンソンスは作品を十分に把握し，違和感の無い， 妥当性の高い表現を築き上げており，バイエルン放送響の緊密なアンサンブル と相まって，ダイナミックでスケール感のある，聴き応え十分の演奏を聴かせ てくれています。 その意味では，これは充実した文句なしの名演と言い得るものなのですが， 私自身がこの演奏を存分に堪能し，満足できたかというと，実は必ずしもそう ではないのです。 それでは何が問題なのかというと，演奏表現におけるデュナーミクやフレー ジングなどの演奏表現があまりに真っ当で当たり前すぎるために，劇的でダイ ナミックな表現といえども，あらかじめ想定していた枠の中にきっちり収まっ ているように思えることで，要するに，陳腐な筋書きのあるドラマに付き合わ されているような思いがしてならないのです。 ヤンソンスは，かねてよりマーラーを得意とし，数多くの録音をリリースし てきているところですが，少なくとも今回の録音を聴く限り，作品への理解や 意図した表現を実現する力量は十分であるとしても，オーソドックスな解釈を 超えて自身の独自の解釈を創り上げるには至っていないということなのでしょ うか。 録音については，あえて表現の深層には踏み込まず，そこで鳴り響いている 音を満遍なく拾い上げて良しとしているような印象であり，音のドキュメント として過不足のないものではあるのですが，なんだかルーチンワークを無難に こなしたといったレベルにとどまっているようにも思えます。この演奏の特色 についてはＳＡＣＤレイヤの方が直截に聴き取れると思いますが，ＣＤレイヤ の方ではそれが引き締まった演奏に聴こえるので，この演奏に対する印象が良 くなるかもしれません。 そんなわけで，この演奏ついては，あえてスペシャルな表現を求めるのでな ければ，申し分のない演奏を優れた音質で聴くことのできる充実の１枚といえ るのですが，私自身はそのことが物足りないと感じてしまったのも事実なので， あとはご自身の耳で聴いて判断されてはいかがかと思います。
2009.11.8
