アリス＝紗良・オットのショパンのワルツ集
◎ショパン ワルツ集（全１９曲） 夜想曲第２０番 嬰ハ短調 遺作 アリス＝紗良・オット（ピアノ） <2009.8> GRAMMOPHON UCCG-1473 昨年，ドイツグラモフォンと専属録音契約を締結したアリス＝紗良・オット （Alice Sara Ott, 1988-）の同レーベルからの第２弾のＣＤとして，ショパ ンのワルツ集が発売になりました。 これは今年の８月にベルリンのテルデックス・スタジオで録音されたもので， 日本先行発売です。さらに国内盤のみのボーナストラックとして嬰ハ短調 遺 作の夜想曲が収録されています。 アリス＝紗良・オットの演奏については，昨年発売されたリストの超絶技巧 練習曲集においても，安定したテクニックと真正でフレッシュな表現による見 事な演奏を聴かせてくれていたところで，今回もどんな演奏を聴かせてくれる のか楽しみです。 それでさっそく聴いてみると，軽く弾むタッチで柔らかく優しく弾き進めら れており，音色も変化に富んでいて，細やかな表現の妙を堪能することができ るのですが，あまりに可憐で美しい演奏なので，なんだかアイドル路線の演奏 ではないのかという印象を抱いてしまいました。 しかしながら，作品番号順に曲が進むにつれて，落ち着きとともに，翳りの ある表現や控えめな表情も加わって，成熟した完成度の高い演奏となっている ことに驚かされます。 この演奏からは，若きピアニストのフレッシュな息吹が感じられるだけでな く，作品への深い理解と共感とともに，絶妙なタッチで息を呑むほどに精妙な 世界をつくり出しており，聴くほどに心洗われ，メランコリックな世界に誘わ れる思いがするばかりでした。 録音については，アリス＝紗良・オットの微妙なタッチと音色を再現し得て いることが何よりも素晴らしく，それによってこの名演を存分に堪能すること ができたのだと思います。もちろんＳＡＣＤであれば音色やタッチの絶妙さを 聴くことができるのだろうと思いますが，それが無いものねだりでしかないと いうのが残念です。 そんなわけで，これはアリス＝紗良・オットのショパンのワルツに対する共 感や思い入れが素直に表出された，絶妙極まりない演奏が堪能できる類い希な る１枚であり，個人的には古今のショパンのワルツ集の録音の中にあってもベ スト３に入るといっても過言ではないほどの魅力的な１枚として，強力に推薦 したいと思います。
2009.10.25
