ジャニーヌ・ヤンセンのベートーヴェンとブリテンの協奏曲
◎ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 <2009.8> ブリテン ヴァイオリン協奏曲 <2009.7> ジャニーヌ・ヤンセン（ヴァイオリン），パーヴォ・ヤルヴィ指揮， ドイツ・カンマーフィル（ベートーヴェン），ロンドン響（ブリテン） 英DECCA 478 1530 英デッカから録音をリリースしている，オランダの女流ヴァイオリニスト， ジャニーヌ・ヤンセンの新譜として，ベートーヴェンとブリテンのヴァイオリ ン協奏曲が発売になりました。指揮は両曲ともパーヴォ・ヤルヴィですが，ベ ートーヴェンでは交響曲全集録音を行っている手兵のドイツ・カンマーフィル を指揮しているのに対し，ブリテンではロンドン響を起用しています。 さっそく聴いてみると，最初のベートーヴェンでのドイツ・カンマーフィル は，力強く引き締まったアンサンブルを基調にしながらも，スムーズな旋律の 運びや，弱音のコントロールにも不足はなく，非常に優れたベートーヴェンの 演奏を聴かせてくれているのですが，何よりもヤンセンのヴァイオリン・ソロ が素晴らしくて傾聴させられます。 ここでのヤンセンのソロは，自在なテクニックを駆使し，全くオーソドック スで，のびやかで，この作品ならではの円満な世界を描き出しており，その格 調高い表現には余裕と風格があって，まさに王道を行くといった趣の演奏であ り，心地良く朗々と鳴り響く音色ともども，至福の思いで聴き入ってしまいま した。 次のブリテンでは，ヤンセンのヴァイオリンの音色は，やや細身で求心的な ものとなり，作品の中に入り込んでひたすらに弾き入っており，描き出される １つ１つのフレーズの触発度が高く，演奏の世界に惹き込まれていきますし， とりわけ第３楽章パッサカリアでのソロには，身を切られるような痛切さがあっ て，悲哀に押し潰されるような思いで聴き入ってしまいました。 この作品でのロンドン響は，作品のツボを心得た練達の表現によって，違和 感のないドラマチックな演奏の世界を描き出しているにもかかわらず，この演 奏を聴いていると，ついついヤンセンのヴァイオリン・ソロの方に意識が向い てしまうのですが，それもロンドン響の作品にピタリと嵌った演奏があっての ことではないかと思います。 録音については，両曲とも自然でダイナミックな音質でこの名演の姿を捉え ており，ヤンセンのヴァイオリン・ソロの音色の魅力や持ち味も十分に聴くこ とができ，これは通常のＣＤながら，まずは申し分のない音質で聴くことがで きると思います。 そんなわけで，これは収録されている２つの作品の，文句なしの名演が堪能 できるとともに，若手奏者の中にあっても，ヤンセンは器の大きさと的確な表 現力において抜きん出た存在であることを実感させてくれる１枚として，強力 に推薦したいと思います。
2009.10.11
