ユンイ・キンのデビュー録音ＣＤ
唐壁光(王建中編) 瀏陽河（りゅうようが） モーツァルト デュポールのメヌエットによる９つの変奏曲 Ｋ５７３ シューベルト ピアノ・ソナタ第１６番 ハイドン ピアノ・ソナタ第２０（３３）番 Hob.XVI：20 グラナドス ゴイェスカス〜わら人形 スクリャービン ワルツ 変イ長調 作品３８ イグナツ・フリードマン ミュージック・ボックス 作品３３の３ リスト 超絶技巧練習曲〜第２０曲 ヘ短調 クラウディオ・プリエト ハエン２００８年 ユンイ・キン（ピアノ） <2008.12.13> 香港NAXOS 8.572341 ナクソスの Laureate Series の新譜で，中国の新進ピアニスト，ユンイ・ キン（秦雲軼, 1992-）のデビュー録音となるＣＤが発売になりました。 ユンイ・キンは，昨年のハエン国際ピアノコンクールで，コンクール史上最 年少の１６歳で優勝し，中国国内でも大きな話題となったところですが，これ は，昨年１２月にコンクール縁のハエンでレコーディングが行われました。ユ ンイ・キンの１７歳の演奏ということになります。 さっそく聴いてみると，最初の瀏陽河やデュポール変奏曲では，ストレート でキリリと引き締まった響きと，キレの良いタッチと，よく検討された絶妙な 演奏上の変化によって，過不足のない演奏を聴かせていると同時に，ピュアで 原石のような魅力を感じさせています。 それがシューベルトのソナタでは，明朗で力感があって，造形もゆるぎない 演奏であり，すでに作品の再現として申し分ない域に達している，その完成度 の高さには驚くほかありませんでしたし，次のハイドンのソナタでも，明るく くっきりとした楽譜を再現しつつも，細やかな表情の変化も巧みで，ピュアネ ス路線の演奏としての完成度は高く，この作品における１つの素晴らしい再現 ではないかと思いました。 グラナドスではビアノを朗々と鳴り響かせているのと，堂に入ったパッセー ジワークが小憎らしいくらいでしたが，スクリャービンは見事なテクニックで 作品を鮮やかに再現しており，集中度も高いのですが，それでも作品の世界に 入り込むことはできでいないようで多少の物足りなさが残りました。 それがフリードマンのミュージックボックスになると，硬質の輝きをもった 高音域の響きと，軽く戯れるようなパッセージとによって，実に愛らしい演奏 をつくりだしており，リストの超絶技巧練習曲でも，水を得た魚のようにブリ リアントなパッセージが軽快に駆け巡るとともに，パッショネートな表現も垣 間見せていて非常に聴き応えがありました。 最後にクラウディオ・プリエトのハエン２００８という作品が収録されてい ますが，これは第５０回を迎えたこのコンクールのための作品のようです。こ れはリズミカルな和音の連打と，メランコリックで内向的なフレーズとからな る作品なのですが，克明でキレのよいタッチで鮮やかに再現していました。 こうして聴いてみると，ユンイ・キンはすでに難曲を鮮やかに弾きこなし， 過不足のない表現を聴かせるだけの技量を有しており，その演奏姿勢やキャラ クターは，精力的でキリッとしていて自信に満ちており，聴いていて心が晴れ て元気になれる演奏であることが何よりも印象的でした。 とはいえ，現段階での限界も明白で，明朗で魅力的な演奏ながら表現は一面 的ですし，情感や陰影のある表現といったものはまだまだ求めることはできな いのですが，これに関してはこれからの成長に期待したいところです。 録音については，スケール感やレンジの広さといった点はそれほどでもない のですが，ユンイ・キンの演奏にピッタリともいうべき，明るく反応がよくて， 張りのある音質で聴くことができていると思います。 そんなわけで，これは１７歳のユンイ・キンの並外れた技量と，明るく積極 的な演奏の魅力を十分に楽しむことができるだけでなく，聴く者に大いなる将 来性と希望を抱かせずにはおかない，魅力的な１枚として強力に推薦したいと 思います。
2009.9.26
