テンシュテット指揮，ロンドンフィルのマーラー６番ライヴ
◎マーラー 交響曲第６番 <1983.8.22> テンシュテット指揮，ロンドンフィル 英London Philharmonic Orchestra LPO-0038 (2CD) これはロンドンフィルの自主制作レーベルでの最新盤です。ロイヤル・アル バート・ホールのプロムスでの演奏会のライヴ録音で，BBC Radio 3 によるア ナログ録音の音源からのＣＤ化です。 これは１０年前に米SARDANAからＣＤ−Ｒ（sacd-197/8）で発売されていた ものですが，オーソライズ盤が発売されるのは初めてとなります。 さっそく聴いてみると，第１楽章はストイックなまでに引き締まったアンサ ンブルと，キビキビとしたテンポとともに，アグレッシヴでフレーズを斬りつ けていくように突き進み，背後には恐怖にも似た緊張感が漂っており，聴き手 に呵責なく責めかかるような戦慄の演奏を聴かせています。 第２楽章は，低弦がリズムをザクザクと刻み，突き刺さるような鋭いアタッ クと鮮烈な響きによって，スケルツォという曲の枠組みを飛び出した，阿鼻叫 喚の世界が繰り広げられており，聴いていて背筋が凍り付くような空恐ろしい 演奏でした。 第３楽章は，クールでやや無機的とも思える響きで，淡々と弾き進められて いるのですが，反応の良さや切れ味は相変わらずで，非感傷的なようでありな がら実はセンシブルであり，引き裂かれたような痛々しさを覚えました。 第４楽章は，クリヤーというよりは鮮烈な響きとインパクトをもった，劇的 な表現を聴かせ，音の破綻も厭わない金管の強烈なフォルテと，赤裸々なエモ ーションの表出が聴き手の胸を抉り出し，激情に引きずり回し，そして最後に は完膚無きまで叩きのめされてしまいました。 こうして聴いてみると，ここでの恐ろしいまでの表出力はただごとではなく， スリリングなどというものを超えて，身の危険すら感じてしまうほどの殺気立っ た戦慄の演奏というほかありませんし，いったい何がテンシュテットをここま で駆り立てているのでしょうか。 音質については，クールかつシャープに演奏の姿を捉えた優秀録音といえる とは思うのですが，痩せ気味で重心が高めの印象であることも否めず，この音 質が演奏の特徴をいっそう際立たせている面があるように思います。 いずれにしても，これは演奏している側のみならず，聴いている方でも命を すり減らすような思いのする尋常ならざる演奏であり，赤裸々な命がけの演奏 を真剣勝負で聴こうという覚悟のある方にのみお薦めしうる強烈な１枚ではな いかと思います。
2009.6.20
