河村尚子のメジャーデビュー録音のショパン
◎ショパン 華麗なる変奏曲 変ロ長調 作品１２ 夜想曲第３番 作品９の３ 夜想曲第２０番 嬰ハ短調 遺作 バラード第３番 即興曲第２番 ワルツ第２番「華麗なるワルツ」 夜想曲第７番 作品２７の１ 夜想曲第８番 作品２７の２ 舟歌 アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 河村尚子（ピアノ） <2008.12.1-3> RCA BVCC-31115 (SACD Hybrid) これは河村尚子のメジャーデビュー盤で，ＳＡＣＤハイブリッド盤での発売 です。昨年１２月にベルリンのイエス・キリスト教会で録音されたものです。 河村尚子は西宮市に生まれ，１９８６年に父親の仕事で５歳で渡独し，ハノ ーファー国立音楽芸術大学でウラディミール・クライネフに師事しており，以 下のような錚々たる入賞歴があります。 ・２００１年 ヴィオッティ国際音楽コンクール 第１位 ・２００２年 カサグランデ国際ピアノコンクール 第１位及び批評家賞 ・２００３年 ゲザ・アンダ・国際ピアノコンクール 第３位 ・２００６年 ミュンヘン国際コンクール 第２位 ・２００７年 クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール 第１位 実はこのＳＡＣＤハイブリッド盤については，３月２５日の発売直後に入手 して聴いていたのですが，私自身の中で何か引っかかるものがあって，その演 奏内容をスムーズに受け入れられず，そのため感想も書き込んでいなかったの ですが，その後，各方面で高く評価されていることもあり，再度じっくりと聴 いてみることにしました。 改めて聴いてみても，演奏の正確性，安定感，スケール感といったものは申 し分なく，作品を仔細に検討した細やかな解釈を聴くことができますし，非常 に丁寧に，思いを込めて演奏しているのが伝わってきます。 さらには音の面でも，演奏に使用しているスタインウェイのソノリティを素 直に引き出している感がありますし，演奏会場の音響の良さもあってか，落ち 着いた深みのある響きを聴かせています。 これほどの優れた内容の演奏であれば，高い評価が得られたとしても何ら不 思議ではないとは思うのですが，それでも私自身がこの演奏に感心し，満足す ることができたかというと，実は必ずしもそうではないのです。 それはどうしてかというと，音の面においても，ピアニズムの面においても， スピード感や反応の良さといったものが希薄で，重くて硬い演奏のように感じ られてならないのです。 もちろん，これもピアニストとしての１つの個性の在り方と言えるのですが， 少なくともショパンの作品においては，音色やフレージングの微妙なニュアン スや繊細さといったものを表現しきれないのではないかと思えてなりません。 とはいえ，これらのことは河村尚子の演奏のみによってもたらされた結果と いうのではなく，プロデューサー，調律師，レコーディングエンジニア・・・ といったレコーディング・スタッフとの共同作業の結果であり，特にこの録音 での音の面での特色はスタッフによるところが大きいのではないかという気が しています。 ちょっと辛口なことを述べることになってしまいましたが，これらのことは 単に私が聴き違いをしているか，ないものねだりをしているに過ぎないのかも しれませんし，いずれにしても水準の高い演奏であり，録音であることは事実 ですので，あとはご自身の耳で聴いて判断されてはいかがかと思います。
2009.5.30
