ユリア・フィッシャーの弾き振りによるバッハの協奏曲集
◎バッハ ２つのヴァイオリンのための協奏曲 ヴァイオリン協奏曲第１番 ヴァイオリン協奏曲第２番 オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ＢＷＶ１０６０ ユリア・フィッシャー（ヴァイオリン＆指揮）， アレクサンドル・シトコヴェツキー（2ndヴァイオリン）， アンドレイ・ルブツォフ（オーボエ）， アカデミー室内管 英DECCA 478 0650 これは，これまでオランダのペンタトーン・レーベルに録音を行っていたユ リア・フィッシャーが英デッカに移籍しての第１弾のリリースです。ペンタト ーンではＳＡＣＤハイブリッド盤での発売でしたが，今回は通常のＣＤです。 さっそく聴いてみると，最初の２つのヴァイオリンのための協奏曲において は，２人のヴァイオリン・ソロの自在さ，軽やかさには差があって，楽々と弾 き飛ばしているフィッシャーにシトコヴェツキーが負けずについて行っている ような感があります。 そのせいか，しっかりした格調高い演奏である一方で，余裕や愉悦感のよう なものは感じられませんし，演奏全体もいまひとつしっくりこないというか， 弾き振りのフィッシャーが全体をまとめきれていないように思えてなりません でした。 それが，フィッシャー１人のソロによる，ヴァイオリン協奏曲第１，２番に なると，オケの伴奏から違っていて俄然活き活きとしていますし，フィッシャ ーのソロも爽やかで澄みきった音色に惹き付けられますし，表情豊かで変化に 富んだ自在なフレージングの見事さには聴いていて惚れ惚れとするばかりです し，これはフィッシャーのセンスの良さと資質の高さの賜物だろうと思います。 オーボエとヴァイオリンのための協奏曲は，克明でオーソドックスな演奏を 聴かせるオーボエ・ソロに対して，フィッシャーの方は余裕を持ってのびやか に演奏しており，オーボエ・ソロを巧みに引き立てながら演奏全体のバランス にも配慮しているといった趣がありました。 こうして聴いてみると，いずれもフィッシャーの清新で高い技量を有した演 奏が堪能できるものではあるのですが，２つのヴァイオリンのための協奏曲の 演奏はいまひとつ乗りきれないようでしたので，やはり指揮者がいた方がよかっ たのかなとも思ってしまいました。 音質については，音は演奏の清新さにマッチした美しく解像度の高いソノリ ティを聴くことのできる優秀録音ですが，さすがに通常のＣＤであることによ る限界はあって，ペンタトーンのＳＡＣＤで聴いていた音質に比べると，響き の実在感や厚みが無く，水で薄めたような音でしか聴けないのが残念です。 このＣＤのパッケージのアートワークには手間がかけられており，ブックレッ トはオールカラーで，ユリア・フィッシャーのポートレートが衣装を替えて何 点も収録されていますし，ケースはＳＡＣＤで使用されることの多いスーパー ジュエルケースであるなど，さすがにメジャーレーベルらしいゴージャスな造 りでありながら，肝心の音質は以前よりも貧弱というのはなんだか悲しいです ね。 いずれにせよ，これはユリア・フィッシャーのフレッシュで素晴らしい演奏 を存分に堪能できるもので，特にヴァイオリン協奏曲第１，２番は，この作品 の数多い録音の中にあっても，最も魅力的な録音の１つと言いうる名演として 強力に推薦したいと思います。
2009.1.31
