レオンハルトのゴールドベルク変奏曲のＳＡＣＤ
◎バッハ ゴールドベルク変奏曲 <1976.8> レオンハルト（チェンバロ） Deutsche Harmonia Mundi BVCD-34060 (SACD Hybrid) これは，古楽界の巨匠レオンハルトの８０歳と，ドイツ・ハルモニアムンディ の創立５０周年を記念して発売された，「グスタフ・レオンハルトの至芸ｏｎ ＳＡＣＤ」の１枚です。ドイツのゾノプレス・プリマスタリング・スタジオで オリジナルのアナログテープからＤＳＤマスタリングを行った音源を使用して います。 レオンハルトはバッハのゴールドベルク変奏曲を１９５３年にヴァンガード に，１９６５年にテルデックに録音しているところで，これは３度目の録音だっ たものです。使用している楽器はブランシェのモデル（１７３０年頃パリ）に よるウィリアム・ダウト製（１９７５年パリ）のチェンバロです。 さっそく聴いてみると，これまでのＣＤとは音質が一変しており，柔らかい ニュアンスに富んだチェンバロの音色が素晴らしく，音の魅力だけでも惚れ惚 れとしますし，何よりも演奏の姿がより正確に聴き取れるようになったのでは ないかと思います。 肝心の演奏は，レオンハルトならではの謹厳実直さを感じさせるもので，気 分や勢いに任せて弾いたりすることはなく，作品とその奏法について入念に検 討を重ねた上での，テンポやフレージングの微妙な変化を精確に実現しており， これによって明快に作品を再現しつつ，落ち着きのある佇まいと無味乾燥にな らない表現の味わい深さを持った演奏をつくりあげています。 これはレオンハルトの情に任せない理詰めの演奏ともいえるのですが，それ ゆえ明快な形を持った表現として聴き手に伝わるのであり，単に聴いて楽しむ ということだけでなく，作品の解釈や演奏姿勢に関して聴く者を啓発して已ま ないところは，まさにレオンハルトの唯一無二の演奏の特徴といえるのではな いでしょうか。 また，この演奏においてはリピートは一切行われていません。このことの意 図については不明ですが，レオンハルトが作品をどのように解釈して演奏する かに主眼が置かれているのであれば，リピートにおいて異なる演奏をするので ない限り行う必要性はないと考えたのかもしれません。 そんなわけで，これはＣＤとは全く別物といえるほどの素晴らしい音質によっ て，レオンハルトの孤高の演奏の姿が細部に至るまで明らかになった，時代を 超えて聴き継がれるべき名演名録音として，ぜひとも一聴をお薦めしたいと思 います。
2009.1.25
