アンセルメ指揮，スイス・ロマンド管の「三角帽子」のＳＡＣＤ
◎ファリャ バレエ「三角帽子」 歌劇「はかなき人生」〜間奏曲と舞曲 アンセルメ指揮，スイス・ロマンド管， ベルガンサ（メゾ・ソプラノ） <1961.2> ESOTERIC ESSD-90016 (SACD Hybrid) オーディオメーカーのエソテリックでは，今年になって英DECCAのオリジナ ル音源からのＳＡＣＤハイブリッド盤の発売を始めたところで，これはその最 新リリースとなるものです。このシリーズは通常のＣＤショップでの発売では なく，エソテリックの製品を取り扱っているオーディオショップでの販売となっ ています。限定盤での発売ということです。 この録音は，ＬＰ時代からこの作品の決定盤的名演として聴き継がれてきた もので，私自身も国内盤ＬＰやＣＤで聴いてきたところですが，正直なところ， 特別に素晴らしい演奏とまでは感じられないというか，いまひとつピンとこな かったというのが実情でした。 それで，さっそくこのＳＡＣＤハイブリッド盤を聴いてみたところ，その音 質の鮮明さ，リアルさ，そして色濃い音色感と輝かしさには，もう唖然とする ばかりで，これまで聴いてきたＬＰやＣＤとは全く別物，別次元というほかな いほどの見事な音質で甦っています。 「三角帽子」の冒頭から，カスタネットや，オレ！オレ！のかけ声が実に生 々しく，ベルガンサのソロも見事な距離感をもって再現されていますし，音の 情報量が増えてレンジが広がったというだけでなく，演奏されているその場に 居合わせているかのような緊迫感があって，もう手に汗握って聴き入ってしま いました。 そして肝心の演奏ですが，弾むようなリズム感や，明るくエキゾチックな響 きによって，聴く者の気持を沸き立たせてくれますし，作品に散りばめられて いる多彩なパートの１つ１つにまで神経が行き届いており，さらにはソロの面 々が実に鮮やかな名妓性を発揮しており，聴けば聴くほど周到な演奏であるこ とに気付かされます。 この演奏でのアンセルメは，細部に至るまでの緻密さと味わい深さ，さらに は演奏の流れのよさやスケール感を，懐深く余裕を持って指揮をしており，ア ンセルメという指揮者の力量を再認識させられる思いがします。 その一方で，ここで聴かれる響きの濃厚なテクスチュアは，スイス・ロマン ド管の生来の響きそのもというより，英DECCAの技術陣による音づくりの成果 だろうと思われ，これは原音再生を目指すというより，レコードの音の再生芸 術としてのリアリティの世界が描き出されており，これも名録音を聴く楽しみ の１つではないかと思います。ちなみにこの録音のエンジニアはロイ・ウォレ スです。 それにしても，この録音のオリジナル音源には，こんな凄い音が記録されて いたのですね。これだけの音で聴けるとなると，「今なお色褪せない」などと いうレベルではなく，演奏，録音の両面で「今なおこれを超えるものがない」 のではないかと思いますし，こういう録音を今やれといわれても無理なのでは ないでしょうか。 これほどの名演だというのに，これまでのＬＰやＣＤを聴いてもピンこなく て十分に楽しめなかったことには恥じ入るほかないのですが，多くの方はこの 演奏の素晴らしさを聴き取り，楽しんでいたんでしょうね。だとすると，この ＳＡＣＤハイブリッド盤できいたらひっくり返っちゃうほど驚いてしまうので はないでしょうか。 そんなわけで，これは控えめに言っても，この作品の最高の演奏と音質が堪 能できる，税込み３３００円という価格が申し訳なく感じるほどの充実の１枚 として強力に推薦したいと思います。
2008.12.27
