ジャニーヌ・ヤンセンとハーディング指揮，マーラー室内管のチャイコフスキー
◎チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 懐かしい土地の思い出 ジャニーヌ・ヤンセン（ヴァイオリン）， ダニエル・ハーディング指揮，マーラー室内管 <2008.7.21〜24> 英DECCA 478 0651 英デッカと専属契約しているオランダの女流ヴァイオリニスト，ジャニー ヌ・ヤンセンの新譜として待望のチャイコフスキーの協奏曲が発売になりま した。今年の７月にサンティアゴ・デ・コンポステラで行われたライヴ録音 ということです。 さっそく聴いてみると，最初のヴァイオリン協奏曲では，引き締まった音 色によって自在な演奏を聴かせており，余裕のあるテクニックには鋭角的に なりすぎない，ほどよい切れ味があり，作品の旋律線を毅然と描き出してい ます。 この演奏は，ややストイックな気配がないではないのですが，求心的でド ラマチックな世界を，雄弁かつ強烈に描き出しているだけでなく，そこには 近寄りがたいほどの風格すら漂っており，この恐ろしいまでの力量と表現力 は何なんだろうと思いつつも，ただただ圧倒される思いで聴き入るばかりで した。 次の懐かしい土地の思い出は，アレクサンドル・ラスカエによるヴァイオ リンと弦楽用にアレンジしたバージョンで演奏されているのですが，こちら の方は協奏曲の時のようなテンションはなく，穏やかに伸びやかな旋律を描 き出しており，心安楽味わい深い演奏を堪能させてくれました。 ハーディング指揮のマーラー室内管は，やや小さめのアンサンブルという こともあって，反応の良い表現を聴かせており，協奏曲ではヤンセンのソロ と丁々発止の演奏をつくり出していましたし，懐かしい土地の思い出ではソ ロの背後で多彩な表現を描き出しているのが見事でした。 録音については，通常のＣＤながらヴァイオリンの音色やオケの響きの質 感など大変に良好で，何ら不満を感じることのない音質でこの名演を堪能す ることができ，最近のドイツ・グラモフォンの首を傾げざるを得ない音質と は雲泥の差です。 それから，チャイコフスキーの協奏曲の第３楽章の終わり近く（９分５５ 秒近辺）で人のうめき声のような音が聴こえるのが不気味です。これは何な んでしょうか。 そんなわけで，これは聴く前に期待していた以上の「超」が付くほどの名 演であり，このテクニックと表現力を形容する言葉としては「味わいを増し たハイフェッツ」とでもいうほかないような，類い希な演奏が記録された１ 枚として強力に推薦したいと思います。
2008.10.19
