ポリーニのショパン作品集（２００８年３月録音）
◎ショパン バラード第２番 マズルカ第２２〜５番 作品３３ ワルツ第２〜４番 作品３４ 即興曲第２番 ピアノ・ソナタ第２番 ポリーニ（ピアノ） <2008.3> 独GRAMMOPHOPN 477 7626 ドイツ・グラモフォンの新譜で，ポリーニのショパンの録音リリースされま した。これは国内先行でしたが，すでに輸入盤ＣＤも国内ショップの店頭に並 んでいます。 ポリーニのショパンというと，２００５年の夜想曲全曲の録音以来となりま すが，これは非常に印象深い，優れた演奏でしたので，今回の録音も大変楽し みです。 さっそく聴いてみると，最初のバラード第２番は１９９９年の録音がリリー スされているところですが，今回の演奏は，オーソドックスで平明な演奏のよ うでありながら，いっそうの落ち着きと深みがあり，ダイナミズムにも不足は なく，作品のドラマチックな世界を冷静に色濃く描き出した，実に味わい深い 演奏を聴かせてくれています。 次の作品３３のマズルカでは，ややあっさりとした感はあるものの，違和感 のない自然なリズム感で作品を描き出しており，確固とした存在感のある彫琢 は情感に乏しい感は否めないのですが，毅然とした表現の中に深い味わいが込 められているのはポリーニの演奏ならではの味わいではないかと思います。 作品３４のワルツでは，作品の華やかさを開放的な響きで再現しているだけ でなく，ノリノリののめり込みで明るく積極的にワルツのリズムを刻み込んで おり，その練達の表現には感服するほかありませんし，明朗に作品を描ききっ た，深みのある演奏を聴かせてくれています。 即興曲第２番は，リラックスした快適な流れとともに，自在でのびやかな旋 律線を描き出しており，非常に周到な演奏でありながら，シリアスに作品に対 峙するのではなく，作品の世界に戯れているような趣もあって，心安らぐ愉悦 感をもたらしてくれる演奏でした。 最後のピアノ・ソナタ第２番でも，勢いやパッションに任せた演奏ではなく， 深みと落ち着きが感じられ，力を抑え気味にしていることで，より自在で反応 のよい表現をつくり出し得ており，甘さのない毅然としたピアニズムによって 強固な音の構築物を思わせる，堂々とした演奏を聴かせてくれました。 こうして聴いてみると，いずれに演奏においても，くっきり明快に作品を描 き出しつつ，より自在さを増した伸びやかな表現と，味わい深さがあって，か つて経験したことの無いような充実した演奏の世界をつくりあげていることに は敬服するほかありません。 録音については，今年３月の最新録音であり，充実した存在感のある音質を 堪能できるものではあるのですが，耳当たりの硬い響きや，余計な艶というか てかりがまとわりついた音なのが気になるところで，もう少し落ち着きのある 音で聴ければもっとよかったと思います。 それから，これは録音のせいにばかりはできないのですが，終始ポリーニの 鼻息がかなりのレベルで聴こえてきて，しかもこれが妙に生々しいので，気に なってしまうかもしれません。 そんなわけで，これはポリーニの相も変わらぬ完璧なテクニックに，円熟し た味わいと，表現の懐深さの加わった，充実の極みにある類い希な演奏が記録 された傾聴すべき１枚として強力に推薦したいと思います。
2008.10.8
