ラトル指揮，ベルリンフィルの幻想交響曲ほか
◎ベルリオーズ 幻想交響曲 カンタータ「クレオパトラの死」 ラトル指揮，ベルリンフィル， スーザン・グラハム（ソプラノ：カンタータ） <2008.5.30〜6.1> 英EMI 2 16224 0 ラトルとベルリンフィルの新譜として，ベルリオーズの幻想交響曲が発売に なりました。これは今年の５月の演奏会と平行してレコーディングセッション が行われる予定だったのですが，５月２０日に本拠地のフィルハーも二ホール で火災が発生し，演奏会は同じ建物の格納庫で行われました。 このＣＤ収録のレコーディングセッションの方は，かつてベルリンフィルが レコーディングに多用していたイエス・キリスト教会で行われました。この教 会は遮音は良くありませんが響き自体は大変に優れているので，音質面でも期 待できそうです。 カップリングはスーザン・グラハムのソプラノによる，カンタータ「クレオ パトラの死」です。 さっそく聴いてみると，最初の幻想交響曲では，大変に精度の高いシャープ なアンサンブルによって，スコアをリアルかつドライに再現しており，水面の ような静けさから，余裕を持って鳴り響くトゥッティに至るまで間然とすると ころがありません。 ラトルの指揮は，主観的な思いを込めたものでないのはいつものとおりです し，奇を衒ったところのないオーソドックスな表現ではあるのですが，強弱や 流れを巧みにコントロールしながら，恐ろしいまでにリアルで呵責ない表現を つくり出しており，ひとたび聴いたら縛り付けられてしまうようなインパクト を持った演奏でした。 この演奏でのラトルとベルリンフィルは，解釈上の新機軸を打ち出している わけでもなく，リアルにスコアの再現を行っているだけともいえるのですが， それにしても，表情一つ変えずに戦慄の表現を平然とつくり出しているような 凄さというか，空恐ろしさがあって，底知れない思いがしてしまいました。 次の「クレオパトラの死」は，フランスものを得意とするスーザン・グラハ ムのドラマチックで堂々たる歌いぶりは聴き応え十分ですし，ラトル指揮のベ ルリンフィルも，古典的なカンタータの枠に収まらない破格のドラマチックさ をもったこの作品に対して，さらにスケール感と劇性を増したような桁外れの 表現力で聴き手に迫ってきて，それこそ最強軍団の手加減無しの演奏に圧倒さ れる思いがしました。 音質については，いつものＥＭＩのトーンキャラクターである，やや暗めの ニュアンスを持った音調ですが，レンジは広いですし，不思議と解像度も確保 されていて，必ずしも再生容易な音質とはいえないかもしれませんが，優秀録 音といいうるものだと思います。 そんなわけで，これは収録されている２つの作品の真っ当で優れた演奏を聴 くことができるのですが，その真っ当なはずの演奏には，背筋が凍り付くよう な強烈なインパクトがあって，聴き手に圧倒的な印象をもたらすにはおかない １枚として強力に推薦したいと思います。
2008.9.7
